2016年3月21日 / 最終更新日時 : 2023年8月9日 戎崎 俊一 気候変動 白亜紀末の寒冷化と暗黒星雲遭遇による大絶滅 Nimura et al. (2016)は、深海底コアのサイト886Cの遠洋堆積物の中に、イリジウム濃度が異常に高い層が5m連続的に分布していることを発見した。そのイリジウム以上層の最上層近くに、チュチュルブ小惑星衝突に関係するK-Pg(中世代―新生代)境界のイリジウム濃度スパイクがある。この幅の広いイリジウム濃度の異常は、地球表面起源のいかなる成分の混合でも説明できない。一方で、太陽系が100pcに及びその中心濃度が2000個陽子/cm^3に達する巨大分子雲に遭遇したと考えるとうまく説明できる。K…
2016年3月9日 / 最終更新日時 : 2023年8月9日 戎崎 俊一 科学論 研究者の生命線としての図書館 研究の進歩が加速している。ちょっと前までは一つの方法論を武器に20年は世界の一線で戦えた。つまり、大学院の頃、習い覚えた学問体系と手法で50歳前後まで頑張り、後は若い研究者を指導(搾取)しつつ、学会や組織間の利害の調整に時間を使って60歳の定年を迎えるというのが研究者の典型的なライフサイクルだった。 ところが今や、世界中の研究者との競争のため、ちょっとした手法の有利は5~10年で陳腐化してしまう。優秀な若手研究者が頑張って定職に就いて、40代になった頃に、彼(彼女)を支えていた手法が賞味期限を過ぎ…
2016年3月7日 / 最終更新日時 : 2023年8月9日 戎崎 俊一 天体物理学 ブラックホール連星の起源と超巨大ブラックホールへの成長 多くの銀河の中心核に太陽の100万倍から10億倍の質量をもつ超巨大ブラックホール(SMBH)があることは、星とガスの運動学研究からはっきりとしてきた。一方、その形成機構は良く和分かっていない。その一つの理由は、恒星質量ブラックホールと超巨大ブラックホールとの間の質量をもつ「中間質量」ブラックホールが発見されていないことにある。X線天文衛星ASCAとChandraのスターバースト銀河M82の中心部分の観測の観測により、このミッシングリンク、中間質量ブラックホールが発見された。Subaru望遠鏡による引…
2016年3月7日 / 最終更新日時 : 2023年8月9日 戎崎 俊一 種の起源と生物進化 ストレスを受けた植物の世代をまたいだレトロ転移をsiRNAが妨げている 真核生物のゲノムは、かなりの割合をレトロトランスポゾンで占められている。ただし、その活動は宿主のエピゲノム機構で制御され、不必要な場合は抑制されている。しかし、この抑制機構の詳細はわかっていない。Ito et al. 2011は、熱ストレスをかけたArabidopsisの実生苗において、ONSENという名前を付けたレトロポゾンの転写が活性化し、染色体外DNAコピーとして、細胞内に存在することを示した。小型干渉性RNA (siRNA)遺伝子が発現しないような変異株の場合、転写産物量と、染色体外コピー数…
2015年7月30日 / 最終更新日時 : 2023年8月9日 戎崎 俊一 書評 聖徳太子 「聖徳太子」(梅原猛著)によると、聖徳太子が活躍した6世紀終わりから7世紀初めの東アジア情勢は、現在に似ているという。中国において、300年ぶりに南北中国を統一した巨大な隋帝国が出現した。隣国は、隋帝国の侵略に戦々恐々としていた。朝鮮半島には、高句麗、百済、新羅が鼎立(ていりつ)し、互いに軍事および外交において、しのぎを削っていた。 著者によると、聖徳太子は煬帝を深く尊敬していたに違いないという。実際、聖徳太子が派遣した遣隋使は「海西の菩薩天子」と煬帝のことを表現している。仏教を厚く信仰し、仏教に…
2015年7月2日 / 最終更新日時 : 2023年8月9日 戎崎 俊一 気候変動 火山噴火が引き起こす大飢饉、玄米備蓄のすすめ わが家では、有事に備えて玄米を備蓄している。そのきっかけは、火山噴火だった。2010年の春(3月から4月)にアイスランドのエイヤフィヤトラヨークトル火山が噴火した。欧州の主要空港が閉鎖され、多くの観光客が足止めを食ったので覚えている方も多いだろう。このとき、私が思い出したのは1782年から88年にかけて起こった天明の大飢饉(ききん)である。日本の近世では最大の飢饉だったといわれている。天明の飢饉も、同じアイスランドのラキ火山とそれに引き続くグリムスヴォトン火山の1783年から85年にかけての噴火が…
2015年5月29日 / 最終更新日時 : 2023年8月9日 戎崎 俊一 科学論 農村衛生研究所設立趣旨文 左:李永春(イ・ヨンチュン)博士の胸像。右:李永春家屋に展示してあった農村衛生研究所設立趣旨文の写真。韓国のシュバイツアーと称される李永春(イ・ヨンチュン)博士の手による農村衛生研究所設立趣旨文。2013年5月に母とその故郷である韓国の群山を訪ねた折に、李永春家屋を訪問し、そこに展示されていた本文の写真を撮影し、その翻訳を同行してくれた金允智(キム・ユンジ)さんにお願いしていた。翻訳されてきた文章は、国民の困難に立ち向かう高潔な博士の人柄を反映し、素晴らしいものだった。特に、最後の「態度」の部分は、…