火山噴火が引き起こす大飢饉、玄米備蓄のすすめ

わが家では、有事に備えて玄米を備蓄している。そのきっかけは、火山噴火だった。2010年の春(3月から4月)にアイスランドのエイヤフィヤトラヨークトル火山が噴火した。欧州の主要空港が閉鎖され、多くの観光客が足止めを食ったので覚えている方も多いだろう。このとき、私が思い出したのは1782年から88年にかけて起こった天明の大飢饉(ききん)である。日本の近世では最大の飢饉だったといわれている。天明の飢饉も、同じアイスランドのラキ火山とそれに引き続くグリムスヴォトン火山の1783年から85年にかけての噴火が原因だったとされている。

2010年の噴火の火山性ガスの噴出量は、4月終わりの時点で、1784年の噴火の噴出量の最初の部分のそれとあまり変わらなかった。私はこれで、ここ数年で飢饉が来ると踏んで、玄米の真空パックを大量発注し、居間に積み上げたという次第である。幸いにして、2010年の噴火は5月に入ると終息に向かった。一方、1783年の噴火はまずラキ火山のものが5カ月続き、さらに別のグリムスヴォトン火山も噴火した。このとき噴出した火山灰と硫化物が地球成層圏に数年間滞在したため、全球的に異常気象が続いた。その結果、農産物が大被害を受けて食糧不足となり貧困と飢饉が欧州全体に広がった。1789年のフランス革命の一つの要因とも考えられている。
実は最近でもそれに近い現象が起きたことを覚えておられるだろうか? 1991年にフィリピンのピナツボ火山が20世紀で最大規模の大噴火を引き起こした。その後、全球的に冷夏傾向が続き1993年に日本では平成コメ騒動が起こった。現代科学技術は干魃(かんばつ)による不作は克服したが、冷夏による不作を完全に克服するには至っていないのだ。

その後2011年には日本で大震災が起こり、いろいろな事件が起こったが、居間にコメが備蓄してあって、アパートに立て籠もっても何とか食いつなげるという安心感は大変ありがたかった。その備蓄の段ボールがまだわが家の居間にある。この4年前の超古古米をいまだにありがたくいただいている。真空パックした玄米は、ほとんど変質していないと私は思う。

日本は、自給が可能なコメに関しては少なくとも3年分の備蓄を持つべきだと感じている。いったん全球的な異常気象が始まったら、食糧輸入が困難になる。それに備えなければならない。まず、家庭で1年分ぐらい備蓄しよう。玄米真空パックであれば、特別な設備はいらない。食糧不足になったときに、一番困るのはわれわれ消費者だ。家族の命を守るため、備蓄を心がけよう。スペース的に困難な場合は、生産者か卸売・小売業者に保管を依頼する「貯米」(銀行にお金を「貯金」するようにコメを預ける)を考えてもいいと思う。次に、生産者も少なくとも1年分ぐらいの在庫を持っていてほしい。人間は、1カ月食べなければ確実に死ぬ。食糧安全保障の観点から、日本の農業を守れというなら、1年分の在庫を常に確保し安定供給のための万全を期す態勢を取ってほしい。

最後に国家も1年程度の備蓄を持つべきだ。今、天明の大飢饉が再発しても、日本では一人の餓死者も出さないための万全の態勢を考えよう。さらに、気候が不順になると、食糧不足から近隣諸国で政治不安が表面化するのは歴史の教えるところである。それが日本に波及しないよう、外交・軍事の面でも油断なきように願いたい。

フジサンケイビジネスアイ2015年6月25日掲載
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