ストレスを受けた植物の世代をまたいだレトロ転移をsiRNAが妨げている
真核生物のゲノムは、かなりの割合をレトロトランスポゾンで占められている。ただし、その活動は宿主のエピゲノム機構で制御され、不必要な場合は抑制されている。しかし、この抑制機構の詳細はわかっていない。Ito et al. 2011は、熱ストレスをかけたArabidopsisの実生苗において、ONSENという名前を付けたレトロポゾンの転写が活性化し、染色体外DNAコピーとして、細胞内に存在することを示した。小型干渉性RNA (siRNA)遺伝子が発現しないような変異株の場合、転写産物量と、染色体外コピー数がさらに増加した。熱ストレス後、ONSENの転写と染色体外DNAは、次第に減少し、20-30日後には検出できなくなるが、siRNAが欠失した変異体では、その子孫のゲノムにONSENの新しい挿入が高い頻度で観測された。挿入パターンの解析から、世代を超えたレトロ転移が花芽の分化時の配偶子形成以前に起こっていることが分かった。したがって、siRNA生合成不全のArabidopsisにおいては、生殖細胞の分化の際にONSENが転移でき、ストレスの記憶が分化の際に維持されることを可能にしている。その結果子孫が、新たな遺伝子型のバリエーション(子孫同士の遺伝子型も異なる)を持つことになる。
ストレスをかけた野生型の植物体の子孫にもストレスをかけなかったコントロールの植物体にも、レトロ転移は観察されなかった。これはsiRNAが、環境ストレスによって誘導されるトランスポゾンの転移を制限していることを示している。Ito et al 2011は、天然でも、あるいは変異株で誘導された場合でも、ONSENのエクソン内への挿入変異体が生じ、熱応答に貢献していることを見出した。このことは、トランスポゾンの誘導と、それによる転移の爆発的な増加が、新規なストレス応答性の遺伝子制御ネットワークの構築に貢献していることを示しているのかもしれない。
(一部、奈良先端大、大島氏の協力を得た)
1) Ito, H. et al. 2011, An siRNA pathway prevents transgenerational retroposition in plants subjected to stress, Nature, 472, doi:10.1038/nature09861.