2015年1月7日 / 最終更新日時 : 2023年4月7日 戎崎 俊一 書評 独裁体制から民主主義へ:権力に対抗するための教科書 ジーン・シャープ著 独裁政体制から非暴力的に政権を取り返すためのノウハウが書かれている。この本を参考に多くの独裁国家の民主化が成し遂げられたという。「仲間を作る」「会合を開く」「意識の高いコア集団を組織する」「プロパガンダ文書を印刷して広く配る」「海外と連携する」「デモンストレーションを企画する」とここまで読んでふと気が付いた。私が今やっていることとあまり違いはない。科学革命、つまり新しい科学のパラダイムを考え出して、科学界に広く認めさせることの具体的手段は、政治的革命のそれと似ているのは必然的であろう。命の危険は多く…
2015年1月6日 / 最終更新日時 : 2023年4月7日 戎崎 俊一 書評 中原中也 大岡昇平著 中原中也の評論である。二人は尊敬と反発をないまぜにしたような激しい親交を結んでいた。中原は天才であった。大岡は普通人であった。天才は普通人が見えないものを見、聞こえないものを聞くことができる。天才は、それができない普通人を、哀れみ、侮蔑し、揶揄さえもする。普通人は、それに傷つき、反発し、しかしその天才性に引き付けられてゆく。一方で、田舎者で無学である(大学に入れなかった)中原は、東京生まれの大学生の友人に憧れ、羨んだ。社会に受け入れられない自分に僻んだ。中原の交友関係は、有名な小林秀雄とのそれも含め…
2015年1月6日 / 最終更新日時 : 2023年4月7日 戎崎 俊一 音楽映画評 Now & Then, Carpenters カーペンターズのあまりに有名なアルバムを購入して聞いた。中学に入学すると同時に英語の勉強に必要という名目で買ってもらったラジカセ。英語はそっちのけでラジオから流れてくるポップミュージックに夢中になってしまった。このアルバムの発表は1973年6月とあるから、私が15歳を迎える年の初夏ということになる。確かに、天気の良い初夏の日曜日にラジオからイエスタディ・ワンスモアが聞こえたときのことを鮮明に覚えている気がする。その後数カ月にわたって、このアルバムの曲がヒットチャートを席巻した。このアルバムの真の特徴…
2015年1月6日 / 最終更新日時 : 2023年8月9日 戎崎 俊一 ルーツと青春 五右衛門の足跡 今から約35年前のこと、私は大阪大学理学部物理学科の2年生だった。当時私は、恐ろしく古くてぼろの一軒家に一人で下宿していた。ある夏の終わりの夜、下宿の前まで来るとピーピー泣いている子猫がいる。この子と共同生活をすることになってしまった。私の部屋は本やら、新聞紙やら服やらが散乱するとてもひどい状態だった。一度、空き巣に入られたが、まったく分からなかったほどだ。しかし、この子の忍び技はすばらしく、そんな中でもカサとも音を立てない。それに感動した私は、この猫を五右衛門と名付けた。われわれの共同生活が「飼う…
2015年1月6日 / 最終更新日時 : 2023年4月7日 戎崎 俊一 書評 人イヌにあう、コンラート・ローレンツ著 イヌやネコを飼っている人は、ぜひ読むといい。彼らと仲良く共同生活するための知恵が随所にちりばめられている。特に、ローレンツの動物の表情の観察は鋭く、愛情にあふれ、洞察に富んでいる。読んでいたら、遠い昔、学生時代に共同生活していた猫のことを思い出した。そのうち書かせてもらおう。…
2015年1月6日 / 最終更新日時 : 2023年4月7日 戎崎 俊一 書評 自己組織化と進化の論理 スチュアート・カウフマン著 一世を風靡した(今もしている?)複雑系科学の第一人者による自己組織化の一般書である。彼らは、NKモデルと言われる数理モデルを使って、自己触媒化学反応ネットワークをモデル化した。それは、生命の起源、発生と細胞分化、カンブリア紀爆発進化、人間心理、社会・経済構造の発達と関係があるの主張がなされている。生命の起源が、単なる一つの自己複製化学物質から始まるのではなくて、相互に触媒しあうたくさんの化学物質でできた自己触媒ネットワークにあるという主張は確かに卓見だと思う。N種類の分子が存在する反応系においては、…
2015年1月6日 / 最終更新日時 : 2023年4月7日 戎崎 俊一 音楽映画評 「風立ちぬ」を観た。 堀越二郎の一連の戦闘機開発の物語、堀辰雄の同名小説、そしてトーマス・マンの「魔の山」の要素を3:3:1ぐらいの割合で混ぜて、宮崎監督の夢と想像力で固めてできた史上初(たぶん)の純文学アニメ作品である。技術者・開発者として面白い挿話はいたるところにあった。サバの骨の形が美しいという二郎の感覚は正しい。流体の抵抗がすべてを決める水中にすむ魚の形と飛行機の揚力を生む翼断面の形が同じなのはたぶん理由がある。独自の工夫で無様なあひるの子を作った亀(二郎)の勇気が大事だ。その失敗の経験は次につながる。二郎は、飛…