注水による誘発地震

アメリカ合衆国において、地震は西海岸のプレート境界と西部山岳地帯に集中して発生する(Figure 1)。しかし、中部や東部でも地震発生が急増している(Figure 2)。その地域はアーカンサス、コロラド、ニューメキシコ、オハイオ、オクラホマ、テキサス、そしてバージニアなどである。これらの地域では、天然ガスや石油の抽出のために、頁岩層の水圧破砕が継続的におこなわれており、それが原因で人工的な地震誘発が起こっている(Ellisworth 2013)。

Figure 1. アメリカ合衆国本土周辺の地震活動(2009-2012)。黒い点が地震活動を現している。M>3の地震のみを記載している。地震活動は西海岸のプレート境界と西部山岳地帯に集中している(Ellsworth2013)。

水圧破砕は、高圧の流体を注入して固い岩相に亀裂を作って透過性を高めることにより固い頁岩層(shale)からの炭水化物(天然ガスや石油)の引き抜きの効率を向上させる技術である。1990年代後半に利用が始まり、アメリカ合衆国中東部とカナダ西部、そしてヨーロッパで適用されてきた。

Figure 2. 米国中西部におけるM>3地震の積算数(1967‐2012)。左上の地図には、ここで考慮された地震の震央が示されている。2009年以降、地震数が急増している(Ellsworth2013)。

 頁岩から炭化水素を抽出するためには、ボーリング孔に結合した亀裂のネットワークを作る必要がある。水平ドリルで頁岩層を水平に数km掘り進み、水圧をかけて水圧破砕を行う。そのとき高圧の水が地層に注入されるので、M_w<1以下の無数のマイクロ地震が発生する(Figure 3)。これまでに、ヒトが感じるほどには大きい地震が水圧破砕活動が原因で発生した例が報告されている。ただし、構造被害を起こすほどではなかった。まず、最大M2.9 のオクラホマ州中西部群発地震では、近傍の井戸での破砕活動とはっきりとした時系列相関がみられた(Holland 2013)。

また、英国ブラックプール近郊で、2012年4月と5月に、頁岩油田での水圧破砕中に最大M2.3 の群発地震が発生した(Green and Styles, 2012)。

 ペンシルバニア州、ウエストバージニア州、ニューヨーク州の跨るアパラチア盆地のマーセラス頁岩は地震活動が低い地域である。油田開発が2005年に始まって以来、数千回の水圧破砕がペンシルバニアで行われたが、M>2の地震は6回しかなかった。頁岩ガス開発の開始以来、この領域で最大の地震はヤングスタウンのオハイオ州境で発生した。これは、ペンシルバニア州にある井戸からの注水によって誘発されたものだった(Kim 2013)。

2009年に、Mw3.0の21個の地震を含む異常な群発地震がブリテッシュ・コロンビア州のホーン川盆地で発生した。その最大のものはMw3.6で遠隔地の労働者は地震を感じるほどだったが、被害はなかった。ブリティッシュ・コロンビアの石油ガス委員会は、これらの地震が、既に存在していた断層の近くでの水圧破砕活動が原因であると結論付けた(BC Oil and Gas Commission 2012)。

Figure 3. 地震誘発の機構。水圧破砕活動は、断層の空隙圧を上昇させる(左)、もしくは、断層に働く応力を変化させる(右)ことで地震を誘発する(Ellsworth2013)。

1) Ellithworth, W. L., 2013, Injection-Induced Earthquakes, Science, 341, 1225942.
2) Holland A., 2013, Earthquakes triggered by hydraulic fracturing in south-central Oklahoma. Bull. Seismol. Soc. Am. 103, 1784–1792.
3) Green, C.A., , P. Styles, 2012, Preese Hall shale gas fracturing: Review and recommendations for induced seismicity mitigation; www.gov.uk/government/uploads/ system/uploads/attachment_data/file/15745/5075-preese-hall-shale-gas-fracturing-review.pdf.
4) Kim, W-Y., 2013, Induced seismicity associated with fluid injection into a deep well in Youngstown, Ohio., J. Geophys. Res. 10.1002/jgrb.50247.
5) “Investigation of observed seismicity in the Horn River Basin” (BC Oil and Gas Commission, Victoria, British Columbia, Canada, 2012); www.bcogc.ca/node/8046/ download?documentID=1270

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