酸素還元酵素の系統解析からみる酸素呼吸の起源と進化: The multiple Evolutionary Histories of Dioxygen Reductases: Impliations for the Orgion and Evolution of Aerobic Respiration

酸素還元酵素(O2Red)は、酸素呼吸鎖に欠かせない酵素で、系統的には関係のない二つのスーパーファミリー(Cyt-bdとヘム・銅O2Red)から構成されている。後者はさらに、A族、B族、C族の三種類に分けられる(Pereira et al. 2001)。Brochier-Armanet et al. (2009)は、673種の真正細菌と古細菌からのこの4種(Cyt-bd、ヘム・銅O2Red酵素のA族,B族、C族)の系統解析を行い、酸素呼吸の起源と進化について調べた。その結果、それぞれの種類は固有の進化の道筋を持っていることが明らかになった。まず、Cyt-bdは真正細菌起源であり、いくつかの古細菌に水平伝播している。次に、C族O2Redはプロテオバクテリア起源で、いくつかの他の細菌に水平伝播している。さらに、B族O2Redは、古細菌起源でいくつかの他の細菌に水平伝播している。最後にA族O2Redは最も古く、現生の古細菌と真正細菌の分岐の前に既に存在していた。

現在の大気の酸素は主にシアノバクテリア酸素発生型光合成活動によってつくられたと考えられている。一方、紫外線による非生物的な水の分解による酸素の発生は無視できると考えられてきた。したがって、より酸素呼吸は酸素発生型光合成の後に生まれたと仮定されてきた(Battistuzzi et al. 2004)。

しかし、もし最も古いA族O2Redの機能がO2の還元であるならば、古細菌と真正細菌の共通祖先は、現在に比べると低いがそれなりの酸素レベルに曝されていたことになる。ただし、O2Red酵素を一つ持っていることが、絶対好気生活を示唆するものでは必ずしもない。少なくとも微小好気、条件的好気、もしくは嫌気的だが耐気性の生活をしていたといえる。たとえば、最初のO2Redは、毒性の高いO2の除去に使われたのかもしれない。

また、A族O2Redが他の化学物質を還元していた可能性もある。実際、O2RedはO2以外に、NOも還元する。また、NO還元酵素(NOR)がO2Redと遠い類縁性を持つので、両者の起源が同じであると考えられている(Castresana and Saraste1995)。しかしもし、A族O2Redが他の化学物質を還元していたとしたら、機能変化が、真正細菌と古細菌に独立に何度も起こったことになるので考えにくい。また、この考え方は、より祖先的な生物がA族O2Redの遺伝子を失っていることをうまく説明できない。NORの系統解析結果は、それがC族O2Redと似た進化の道筋を示しており、これがプロテオバクテリアに起源して水平伝播で広まったことを示している。

A族O2Redがより広い基質の還元に関与していて、後に酸素レベルの上昇に伴って酸素に特化した可能性も否定できない。しかし、どちらにしろ祖先生物の酵素が広い基質スペクトルを持っていたことは、その時にもかなりの量の酸素があったことをしめしている。

Pereira, M.M. et al. 2001, A novel scenario for the evolution of haem-copper oxygen reductases, Biochimica Et Biophysica Acta-Bioenergetics, 1505,
185-208.

Brochier-Almanet C. et al. 2009, The multiple Evolutionary Histories of Dioxygen Reductases: Impliations for the Orgion and Evolution of Aerobic Respiration, Mol. Biol. Evol. 26, 285-297.

Battistuzzi, F.U. et al. 2004, A genomic timescale of prokaryote evolution: insights into the origin of methanogenesis, phototrophy, and the colonization of land, Bmc Evolutionary Biology, 4, 44.

Castresana, J. and Saraste 1995, Evolution of Energetic Metabolism – the Respiration-Early Hypothesis, Trends in Biochemical Sciences, 20, 443-448.