2018年10月24日 / 最終更新日時 : 2023年8月9日 戎崎 俊一 科学論 ジェラール・ムルー氏のノーベル物理学賞受賞を祝う 今秋、ジェラルド・ムルー氏がノーベル物理学賞を受賞された。受賞理由は、レーザーのチャープパルス増幅法の発明である。この手法を使うことにより、レーザーパルスの継続時間を圧縮し、高強度(ペタワット=10の15乗ワット)を作ることが可能になった。 ペタワットの強度の実現は、レーザー航跡場加速に道を開いた。ペタワットレーザーパルスの中の電子は、レーザーの横向き電場による運動が相対論的に、つまり速度がほぼ光速になる。このことによる非線形効果のために、高強度パルスがプラズマ中を伝搬すると、強い航跡場がその周りに…
2018年8月24日 / 最終更新日時 : 2023年8月9日 戎崎 俊一 科学論 伊能忠敬の挑戦 伊能忠敬は1795年に佐原から江戸に出て幕府天文方の高橋至時に入門し、天文学を本格的に始めた。当時彼は50歳だった。測量においては天測が重要である。例えば、現在のカーナビはGPS衛星を「天測」して自分の位置を割り出す。天文学と測量学、そして暦学は本来一体のものである。至時らは、最新の天体力学理論を考慮した「寛政暦」を1797年に完成させるが、さらに精度の高い暦を作るためには、地球の半径を知る必要があることに気づいた。例えば、地球の半径は子午線1度の弧長から計算できるが、当時日本で知られていた値には1…
2018年2月23日 / 最終更新日時 : 2023年8月9日 戎崎 俊一 気候変動 太陽活動の弱化がもたらす天候不順と政変・戦乱の時代 太陽の磁気活動は、約11年の周期で増減している。その振幅は常に変動している。例えば1645~1715年はほとんど黒点が観測されなかったので、マウンダー極小期と呼ばれている。そのほかにも1280~1340年のウォルフ極小期、1450~1570年のシュペーラー極小期、1790~1820年のダルトン極小期などが知られている。 1870年ごろから1930年にかけては極小期ほどではないが、太陽活動があまり活発でなかった。しかし、1940年ごろから2000年にかけて非常に活発化した。その後急速に弱化して今に至…
2017年12月26日 / 最終更新日時 : 2023年8月9日 戎崎 俊一 生命の起源 原初的生命を育んだ「ゆりかご」としての自然原子炉 地球化学者、黒田和夫が地球に自然原子炉が存在する可能性があると予言したのは1956年のことだった。それから16年たった72年に中央アフリカのガボン共和国オクロで、約20億年前に活動していた自然原子炉の化石が発見された。高品位のウラン鉱床の一部に、核分裂するウラン235の濃度が特異的に少なく、核分裂生成物が存在する場所が発見されたのである。 その解析から、連鎖反応が30分維持され、2時間半ほど休止することを繰り返す活動を15万年ほど続けたらしい。同様の自然原子炉跡がその近くに16カ所見つかっている。…
2017年10月27日 / 最終更新日時 : 2023年8月9日 戎崎 俊一 地震と津波防災 小川琢治(湯川秀樹の実父)が指摘した津波発生原因としての海底地滑り 地質学者の小川琢治は、ノーベル賞物理学者、湯川秀樹の実父である。彼は1870年、紀伊国田辺藩の儒学者、浅井篤の次男として生まれた。16歳で上京し、第一高等学校に入学。20歳のときに濃尾地震に遭遇した後、熊野旅行に行き、湯ノ峰温泉、瀞(どろ)八丁、潮岬を旅行する。この地震と旅行がきっかけで地質学に興味を持ったといわれている。 2年後には帝国大学理科大学地質学科に入学している。97年に東京帝国大学を卒業して地質調査所に入所したが、1908年には退官して京都帝国大学文科大学教授地理学講座担当となり、21…
2017年8月23日 / 最終更新日時 : 2023年8月9日 戎崎 俊一 科学論 オランダ・ローレンツ委員会、水害を根絶する オランダは国土の4分の1が海面より低い干拓地である。常に水害に悩まされてきた。1916年には、北海の暴風雨に伴う高潮で、首都アムステルダムの北方の北ホラント州の大部分が浸水した。これに懲りたオランダ政府は、アムステルダムの北東に広がるゾイデル海の入り口を堤防で閉鎖して北海の高潮による水害を根絶する計画を立てた。 一方、ゾイデル海の入り口を閉鎖した場合、北海との境界にあるワッデン諸島と堤防の間の海域での干満差の拡大に懸念があった。それを考慮して、この部分の防潮堤をかさ上げしなければならない。問題は…
2017年5月12日 / 最終更新日時 : 2023年8月9日 戎崎 俊一 天体物理学 スーパープレッシャー気球の放球成功、国際協力で成層圏利用推進 4月25日早朝(日本時間)にニュージーランドの南島、ワナカから米航空宇宙局(NASA)のチームがスーパープレッシャー気球の放球に成功した。通常の大気球は、気密性が低くてヘリウムガスの消散が速いため高度約40キロの成層圏滞在が数日に制限されるのに対し、スーパープレッシャー気球は、気密性が高く、1カ月を超える成層圏での滞在を可能にした。 これまで、長期間の圧力に耐える丈夫さと軽さを兼ね備えた気球膜の製造が困難だった。NASAは何度も試行はするものの、なかなか望むような長期飛行ができなかったが、とうとう…