スーパープレッシャー気球の放球成功、国際協力で成層圏利用推進

4月25日早朝(日本時間)にニュージーランドの南島、ワナカから米航空宇宙局(NASA)のチームがスーパープレッシャー気球の放球に成功した。通常の大気球は、気密性が低くてヘリウムガスの消散が速いため高度約40キロの成層圏滞在が数日に制限されるのに対し、スーパープレッシャー気球は、気密性が高く、1カ月を超える成層圏での滞在を可能にした。
これまで、長期間の圧力に耐える丈夫さと軽さを兼ね備えた気球膜の製造が困難だった。NASAは何度も試行はするものの、なかなか望むような長期飛行ができなかったが、とうとう2015年3月の打ち上げで初めて30日を超える(実際は32日)飛行に成功した。
16年3月の打ち上げでは46日の飛行を記録。観測機器の回収を優先して、気球が大陸上に来たときに早めに落下させる。ただ、その時点でヘリウムガスにはまだ余裕があり、100日以上の飛行も不可能ではないと専門家は指摘する。そうなると、従来の大気球に対して10倍以上の飛行時間をとることができ、それだけ感度の良い観測ができることになる。
今回の気球飛行には、著者も含む理化学研究所のチームが参加した観測装置が搭載された。それは、宇宙からやってくる超高エネルギー宇宙線が作る空気シャワーという荷電粒子(主に電子と陽電子)のシャワーが大気の窒素分子を励起して発する紫外線を検出するための望遠鏡だ。この実験では、世界で初めて上空から空気シャワーを観測することを目指す。理化学研究所のチームは、超精密加工技術を生かして、この1メートル角の「プラスチック・フネレル・レンズ」を製造して提供した。目標とする空気シャワーは、おおむね数日に1個程度の頻度で検出される。
この観測機器は、米国を中心に、日本、フランス、イタリア、ドイツ、アルジェリア、ポーランド、メキシコなどの多くの国の研究者が関わる。それぞれの国の置かれた制限の中で、お互いに補い合って望遠鏡を製作。スケジュールが極めてタイトな中、ほとんど不可能とさえ思われた望遠鏡製作が期日に間に合ったのは、「奇跡」が連続して起こったからである。自分のところで「奇跡」のバトンを途絶えさせてはならないと各段階の担当者が頑張ったからこそ、打ち上げまでたどり着けた。国際情勢が複雑になっている中、世界の仲間と協力してこそできるこのようなプロジェクトに参加できたのはとてもうれしく、科学者をやっていてよかったと思う。
さて、成層圏は常に晴れており、太陽光発電には理想的な場所だ。また、定点上空に長く滞在できるよう推進力をもつか係留すれば、都市の重要な通信・発電インフラとして機能するかもしれない。成層圏に長期に滞在できるこのような成層圏気球技術について日本でも見直す時期に来ているといえるかもしれない。

2017年5月10日 フジサンケイビジネスアイ 許可を得て転載。