2017年2月9日 / 最終更新日時 : 2023年8月9日 戎崎 俊一 科学論 ジェームズ・クック航海の偉業――天文学から航海術へ ジェームズ・クックの航海日誌を読了した。これは、エンデバー号による1768年から71年の足かけ3年にわたる第1回の太平洋航海に関するものである。航海の目的は69年6月3日に起こると予測された金星の日面通過の観測による金星・太陽間の距離の測定だったという。このために天文学者のチャールズ・グリーンが航海に同行した。日誌の過半は、その日の天候、風向き、天測による緯度・経度の記述で占められている。当時の風帆船の航海日誌としては当然である。さて、天測による経度・緯度の決定はどのように行うものだろうか。まず緯…
2017年2月5日 / 最終更新日時 : 2023年8月9日 戎崎 俊一 地震と津波防災 大正関東地震(1923)における相模湾内海底地滑りと津波の発生について 大正関東地震(1923年)においては、伊豆半島東岸から房総半島西岸までの相模湾沿岸各地において、地震発生直後に津波が襲来し大きな被害がもたらした。その発生原因について考察する。1.津波襲来状況と相模湾の海底地形変化調査津波襲来状況は、神奈川県水産試験場によって調査され調査報告書以下のようにまとめられている(吉田ら2012)「西部真鶴付近にあっては激震後5 ~ 6 分にして、東部三浦郡沿岸においては三崎付近に早く4 ~ 5 分の後、長井鎌倉等北上するに従って遅れて江ノ島付近にては約10 分後であった。…
2017年1月29日 / 最終更新日時 : 2023年8月9日 戎崎 俊一 生命の起源 生命起源の原子炉間欠泉モデル ミラー・ユリーの実験(Miller and Urey 1959)以来、多くの化学進化実験が行われた。Ebisuzaki and Maruyama (2016)は、冥王代の地球表層にはたくさんあったはずの自然原子炉が生命構成分子を豊富に安定に供給する生命誕生の環境を作ったとと考えている。1972年に自然原子炉の化石がアフリカのガボン共和国オクロで発見されている。それは、水を減速材として用いる核分裂原子炉であった。水が浸入して核分裂連鎖反応が臨界に達し、それによる熱の発生により水が蒸発してなくなると連鎖…
2017年1月8日 / 最終更新日時 : 2023年8月9日 戎崎 俊一 天体物理学 タンデム惑星形成理論: Tandem Planetary Formation Theory Ebisuzaki and Imaeda (2017)は新しい惑星形成理論の枠組みを構築した。彼らはまず、原始星の周りを回転する降着円盤の定常1次元構造を求めた。そこで、磁気回転不安定性(MRI)による乱流の発生を考慮すると、円盤は、3つの領域、外の乱流領域、静穏領域そして、内側の乱流領域に分かれることが分かった(Imaeda and Ebisuzaki 2016)。外側の乱流領域は磁気回転不安定のために完全に乱流的であるが、r_out(=9-60天文単位)よりも内側では、円盤の中央面付近で電離度が…
2016年12月29日 / 最終更新日時 : 2023年4月29日 戎崎 俊一 生命の起源 脂質膜の初期進化と細菌と古細菌の分岐 すべての細胞膜は、グリセロールリン酸のリン脂質でできており、その共通性が最終共通祖先(LUCA)の存在の根拠の一つになっている。しかしながら、リン脂質の生合成経路は、細菌と古細菌で非常に違っているので、それらの最終共通祖先は、リン脂質膜を持っていなかったのではないかとの疑いがもたれていた。Lombard et al 2012によると、最近の系統樹の研究はそれを支持せず、LUCAはむしろ両者の要素を持つ複雑なリン脂質膜を持っていたことを示唆している。細菌と真核生物は、同じ細胞膜を持っている。それはgl…
2016年12月15日 / 最終更新日時 : 2023年8月9日 戎崎 俊一 地震と津波防災 海底地滑りによる津波災害拡大 2011年3月11日の東日本大震災では、巨大津波が1.5万人を超える人命を奪い、東北地方太平洋沿岸に未曽有の災害をもたらした。このときの津波データを見ると、震源に近い仙台市周辺よりもかなり北に偏った岩手県陸前高田市から同宮古市にかけての三陸沿岸を並はずれて高い40メートルの津波が襲来したことがわかる。このような現象は、リアス式海岸の地形効果のみで説明できるのだろうか。 東京大学のゲラー教授ら国際チームは、津波の波形データを詳細に調べた。その結果、津波の観測データを説明するためには、震央に近い波源の他…
2016年12月15日 / 最終更新日時 : 2023年8月9日 戎崎 俊一 天体物理学 深刻化するスペースデブリ問題 研究本格化を 宇宙ごみ(スペースデブリ)は、地球衛星軌道を周回する不要な人工物体だ。宇宙開発の活発化に伴い増え続けており、約3000トンのスペースデブリが地球周回低軌道に存在するといわれている。その速度は弾丸よりも速い秒速10キロメートルに達するため、小さなスペースデブリであっても、人工衛星や宇宙ステーションに衝突すれば致命的な損傷を与える可能性がある。スペースデブリ同士の相互衝突により増加したスペースデブリが、他のスペースデブリや衛星に衝突することで、さらに増殖することが懸念されている。実際、2000年から14…