タンデム惑星形成理論: Tandem Planetary Formation Theory
Ebisuzaki and Imaeda (2017)は新しい惑星形成理論の枠組みを構築した。彼らはまず、原始星の周りを回転する降着円盤の定常1次元構造を求めた。そこで、磁気回転不安定性(MRI)による乱流の発生を考慮すると、円盤は、3つの領域、外の乱流領域、静穏領域そして、内側の乱流領域に分かれることが分かった(Imaeda and Ebisuzaki 2016)。外側の乱流領域は磁気回転不安定のために完全に乱流的であるが、r_out(=9-60天文単位)よりも内側では、円盤の中央面付近で電離度が極端に下がり、磁場とガスとの相互作用が全くなくなって、磁気回転不安
定が抑制される領域(静穏領域)が現れる。さらに内側に進んでr_in(0.2-1.0天文単位)ぐらいになると、重力エネルギー解放のためにガスの中央面の温度が1000Kを超えて再び電離度が上昇して磁気回転不安定が起動され、円盤が再び乱流的になる。
この3つの領域を分ける二つ(外側と内側)の境界が、惑星形成に重要な役割を果たす。微惑星(直径数キロメートルの微小な惑星)は外側と内側の境界付近の二つの場所でのみ形成される。固体微粒子が、動径方向に移動して二つの境界に集まってくるからである。
外側の境界では氷の粒子が低速衝突による多孔性集積を繰り返し、雪の塊のように非常に低密度(10^-5 g cm^-3)になりつつ直径数メートルになるまで成長する。最終的には、これらが重力不安定を起こして微惑星となる。この微惑星がさらに集まって木星や土星などの巨大ガス惑星の固体コアや海王星などの氷惑星となったと考えられる。
一方、内側の境界ではガス圧が最大になるので、岩石粒子の動径方向のドリフト速度が非常に小さくなり、吹きだまって集積する。それらはガス円盤の中央面付近に固体微粒子(小石サイズ)でできた薄く高密度のサブ円盤を形成する。それが薄くなりすぎて重力不安定を起こし、分裂して微惑星を形成する。この岩石でできた微惑星がさらに小石サイズの固体粒子を吸収しつつ成長し、最終的には地球、金星、火星などの岩石惑星となったと考えられる。
内側の境界の温度は、ナトリウムやカリウムのようなアルカリ元素が電離を始める温度で決まっており、必ず1000Kを超える高温になる。したがって、そこで作られる岩石微惑星は揮発成分(水や二酸化炭素)を完全に失ってしまう。このような水を持たない微惑星の形成は、地球を含む岩石惑星が完全に水なしでまず生まれたらしいという地球マントルや月の石、火星隕石の最近の分析結果と整合的である。その場合、今地球に存在する水は、惑星形成後だいぶ(1億6千万年ほど)経ってから、現在の小惑星帯あたりにあった炭素質コンドライト様の小惑星の爆撃で後からもたらされたと考えなければならない。
この新しい理論は「タンデム惑星形成」と名付けられた。外側と内側の二か所で形成されるからである。タンデム惑星形成理論は、これまでの理論にはない良い特徴を持っている。まず、固体微粒子が円盤の二か所に勝手に集まってくる機構を持っているので、固体粒子の成長が十分早く起こり惑星ができる。次に、原始惑星がある程度成長してからも、小石サイズの粒子の供給が外側の領域から続くと期待されるので、少数(10個以下)の比較的大きな惑星ができる可能性が高い。その過程では激しい惑星同士の衝突はあまり起こらない(数が少ないから)と期待されるので、太陽系の惑星が円軌道に近い軌道を持つことが自然に説明できる。最後に、太陽系には、火星の外から木星までの間に固体成分
がない「間隙」が存在することが知られている。現在はそこには惑星が存在せず、小惑星帯になっている。タンデム惑星理論は固体粒子分布の間隙を自然に説明できる。
このようなタンデム惑星がうまく機能するためには、星ができる環境が適切でなければならない。例えば、円盤の縦磁場の強さが弱いと外側の境界が100天文単位の外に出てしまい、外側での氷微惑星の形成がうまくいかなくなることが分かっている。今後、星形成の環境と惑星形成の様態の関係について調べれば、最近見つかっている多様な惑星系をうまく説明できるようになるかもしれない。
Ebisuzaki, T. and Imaeda Y., 2017, United theory of planet formation (i): Tandem regime, New Astronomy, 54, 7-23.
Imaeda, Y. and Ebisuzaki, T., 2016, Tandem planet formation for solar system-like planetary systems, Geoscience Frontiers, in press.