2020年1月17日 / 最終更新日時 : 2023年8月9日 戎崎 俊一 ルーツと青春 七大学柔道の精神 大阪大学に入学した私が打ち込んだのは柔道だった。阪大の柔道部は全国七大学柔道優勝大会での優勝を目標としている。この大会は、戦前の高専柔道の流れをくみ、いつでも寝技に入れる独特のルールで15人勝ち抜き戦で行われる。北海道大、東北大、東京大、名古屋大、京都大、大阪大学、九州大が参加している。 柔道は他の格闘技と同様に、体格がよいものが有利である。また、立ち技は持って生まれたバランス感覚が重要で、それを練習で埋めることは困難である。では、体格にも才能にも恵まれないものが、主役となりえる柔道はないのだろう…
2019年11月2日 / 最終更新日時 : 2023年8月9日 戎崎 俊一 地震と津波防災 大規模な地滑りが津波地震を起こす 東北日本太平洋岸の東約200キロ沖にほぼ南北に延びる日本海溝は、最深部の水深が8020メートルであり、地球で最も低い場所の一つである。その底から日本列島を見上げるとその高さはヒマラヤ山脈に匹敵する。ここでは、太平洋プレートが地球深部に向かって沈み込んでいる。その陸側斜面では、その沈み込み運動に引きずられて10度を超える急斜面が形成されている。 その詳細な地形図には、いたるところに地滑り跡らしい巨大な崖がみられる。その斜面の崩壊で、巨大な岩石塊を含む土砂が、海溝最深部に流れ込んでいることが想像される…
2019年7月1日 / 最終更新日時 : 2023年8月9日 戎崎 俊一 天体物理学 紫外線で夜の地球を網羅的に観測――国際宇宙ステーション搭載の望遠鏡 地球の夜側を近紫外線で詳細に観測する「Mini-EUSO望遠鏡」が、準備の最終段階を迎えている。Mini-EUSO望遠鏡は口径25センチの紫外線望遠鏡で、国際宇宙ステーションのロシアモジュールにある紫外線透過窓に設置され、地球方向を観測する。視野は±19度で、差し渡し250キロの領域を2.5マイクロ秒ごとに48×48画素で撮像観測する。(戎崎俊一) これは、超高エネルギー宇宙線を観測するための超広視野望遠鏡・EUSO(ユーゾ)の開発の一環をなすもので、宇宙におけるプラスチックフレネルレンズ、位置検…
2019年4月27日 / 最終更新日時 : 2023年4月10日 戎崎 俊一 天体物理学 超高精度の時計が切り開く未来 海底・宇宙で展開、自然災害の予兆把握 私の同僚の香取秀俊・理化学研究所主任研究員(東京大学教授との兼任)は相対精度が10の18乗に及ぶ超高精度の時計を開発している。これは約1000個の原子(セシウムやストロンチウム)をレーザーで作った格子状の井戸の中に閉じ込めて冷却し、高統計・高精度でそのスペクトル線を測定する装置で、光格子時計といわれている。 一般相対性理論によると、重力ポテンシャルの中では時間の進みが遅い。つまり、地上でも低い場所の方が高い場所よりほんのちょっと時の進みが遅いことになる。そこで、東京都文京区にある東大と埼玉県和光市に…
2019年2月28日 / 最終更新日時 : 2023年8月9日 戎崎 俊一 地震と津波防災 自然災害多発で高まる必要性、求められる本格的な病院船 病院船とは戦争や大災害の現場で、傷病者に対して医療サービスを提供するための船舶である。2回の世界大戦においては、客船を改造した病院船が活躍した。現在はアメリカ海軍の病院船マーシーが有名である。タンカーを改造してできたマーシーは排水量6万9360トン、1000病床、12の手術室を有する堂々たる総合病院である。コンピューター断層撮影装置(CT)や超音波検査装置など最新の診断装置を備え、各種の医療用ガス、真水(1日281トン)を生産する能力を持つ。2004年に発生したインドネシア・スマトラ島沖地震による…
2018年12月20日 / 最終更新日時 : 2023年8月9日 戎崎 俊一 地震と津波防災 パル地震による津波災害と、パルと東京の地形の類似性 今年9月28日、インドネシア・スラウェシ島でマグニチュード7.5の地震が発生した。それに伴って、島中部に位置する中スラウェシ州の州都パルの町を波高6~10メートルの津波が襲い、2000人を超える犠牲者を生む大災害を引き起こした。パル湾を南北に走るパル・コロ断層の横ずれが地震の原因であり、当初あまり大きな津波が発生するとは考えられていなかった。 パルは南北に伸びるパル湾の湾奥に位置している。湾口部および湾内で発生した同時多発海底地滑りが、その原因ではないかと推定されている。実際、地上でも、傾き1度程度…
2018年10月24日 / 最終更新日時 : 2023年8月9日 戎崎 俊一 科学論 ジェラール・ムルー氏のノーベル物理学賞受賞を祝う 今秋、ジェラルド・ムルー氏がノーベル物理学賞を受賞された。受賞理由は、レーザーのチャープパルス増幅法の発明である。この手法を使うことにより、レーザーパルスの継続時間を圧縮し、高強度(ペタワット=10の15乗ワット)を作ることが可能になった。 ペタワットの強度の実現は、レーザー航跡場加速に道を開いた。ペタワットレーザーパルスの中の電子は、レーザーの横向き電場による運動が相対論的に、つまり速度がほぼ光速になる。このことによる非線形効果のために、高強度パルスがプラズマ中を伝搬すると、強い航跡場がその周りに…