紫外線で夜の地球を網羅的に観測――国際宇宙ステーション搭載の望遠鏡

地球の夜側を近紫外線で詳細に観測する「Mini-EUSO望遠鏡」が、準備の最終段階を迎えている。Mini-EUSO望遠鏡は口径25センチの紫外線望遠鏡で、国際宇宙ステーションのロシアモジュールにある紫外線透過窓に設置され、地球方向を観測する。視野は±19度で、差し渡し250キロの領域を2.5マイクロ秒ごとに48×48画素で撮像観測する。(戎崎俊一)
これは、超高エネルギー宇宙線を観測するための超広視野望遠鏡・EUSO(ユーゾ)の開発の一環をなすもので、宇宙におけるプラスチックフレネルレンズ、位置検出型光電子増倍管アレイの技術検証と宇宙線観測時にバックグラウンドとなる大気光の全球マッピングを行うのが主要目的である。
その他に、Mini-EUSOは地球科学に貢献する。まず、地球高層(高さ約100キロ)大気が夜光を放射している。これは原子状酸素の再結合によるものだ。これまでの地上観測で、夜光放射にしま状の濃淡構造があることが観測されている。これは、大気圏で作られた擾乱(じょうらん)が、波として上層に伝わって作られると考えられている。しかし、地上から一度に観測できる領域は100キロ程度に制限されているので、この波がどこで作られてどこに伝搬していくのかが分からない。
国際宇宙ステーションの運動により250キロの幅で帯状に観測できるMini-EUSOは、このしま状構造の全球的な分布を明らかにし、大気上層に伝わる波の起源を明らかにすると期待されている。
また、上空から大気圏の放電現象の観測が可能である。2.5マイクロ秒の超高速で撮像観測ができるMini-EUSOはエルブスやスプライト、ブルージェットなどの特殊な放電現象の発達の様子を明らかにする。近紫外線は、地上観測では大気吸収で観測が難しいので、詳細な撮像観測がなされていない。同様に、流星の観測も行う。
さらに、夜光虫などの中には、近紫外線領域で発光するものがある。発光生物の全球マッピングが行える。
薄明帯通過中は、太陽光の反射によってスペースデブリ(宇宙ごみ)の観測が可能である。Mini-EUSOで使われる超広視野望遠鏡の技術により、スペースデブリのその場検出が実現できる。これは、スペースデブリ脱軌道ミッションの基幹技術である。
Mini-EUSO望遠鏡は、イタリア宇宙機関とロシア宇宙機関の国際共同プロジェクトで推進されている。今年8月にロシアのバイコヌール基地から打ち上げる予定である。ミッション機器の製作は、イタリアとロシアをはじめ、日本、フランス、ポーランドなどの研究者が協力して行った。理化学研究所を中心とした日本チームは、レンズ製作と光電子増倍管アレイの製作の一部を担っている。
世界が次第にきな臭くなっている中で、各国の研究者の知恵と技術を結集し、お互い足りないところを補って一つの観測機器を作り上げ、運用するこのようなプロジェクトに参加できることは大変幸せである。協力して困難に立ち向かうことで国境や国籍を超えた友情を育んでいる。
2019.6.26 フジサンケイビジネスアイ 高論卓説
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