2015年1月7日 / 最終更新日時 : 2023年4月7日 戎崎 俊一 書評 フランス・プロテスタントの反乱 カミザール戦争の記録 カヴァリエ著 フランス絶対王政の最盛期を画するとされるルイ14世が、プロテスタントの信仰の自由を保障したナント勅令を破棄して、プロテスタントの弾圧を始める(1685年)。弾圧に耐えかねた南フランス、セヴォンヌ地方の農民たちは、ついに1702年に信仰の自由を求めて蜂起する。カヴァリエは、カミザールと呼ばれた蜂起軍の軍事指導者の一人である。彼らは、ゲリラ戦のお手本のような戦い方で、10倍するフランス正規軍と2年間戦う。しかし、海外からの援助も遅れ、次第に追い詰められてゆく。カヴァリエは、体制側と交渉の道を探り、信仰の…
2015年1月7日 / 最終更新日時 : 2023年4月7日 戎崎 俊一 書評 心の仕組み スティーブン・ピンカー著 進化心理学という分野がある。人類の進化の中で、心がどのように発達してきたのかを調べる学問である。ピンカーは、進化心理学の旗手の一人とされている。この本における彼の主要な主張は、「心は、狩猟採集生活に適応するために進化してきたニューラル・コンピュータである」ということだ。人間は、狩猟採集生活を通じて「自然物」「生物」「自分の運動」「相手の心理」「論理」「数」などを取り扱い、その次の動きを予測するための「モジュール」を発達させたという。個々のモジュールは、ある程度独立して働きゆるく結合されている。このよ…
2015年1月7日 / 最終更新日時 : 2023年4月7日 戎崎 俊一 書評 情報理論 甘利俊一著 情報理論の基礎を扱った好著。第一章で、あまりにすらすらと情報エントロピーが導き出されるのは驚きだった。その後の章で、通信に関する情報理論が展開され、著者の代表的仕事とされる情報幾何学のとば口まで導かれる。講義録を起こしたものらしく、著者独特の語り口が残っていて名教授の名講義を聞いている気分が味わえる。各説の最後に置いてある「雑談」は、情報学の考え方や方法論を著者なりの解釈で伝えるもので、大変参考になった。このところ、生物進化の理論を作っている。繁殖は交配を通じた次世代へのゲノムの通信とみなせるかもし…
2015年1月7日 / 最終更新日時 : 2023年4月7日 戎崎 俊一 音楽映画評 映画評 Inglourious Basterds 2009 クエンティン・タランティーノ監督の戦争映画である。タランティーノ監督作品の通例で、映画は一見独立した五つのストーリーで構成されている。最初の数話は相互の関係がわからない。タランティーノなんだからきっとこのストーリーは後で伏線として生きてくるに違いない信じて、我慢して見続ける忍耐力が必要である。主演はブラッド・ピットだが、彼の南部訛りの英語が聞き取りづらく、筋を追うのに苦労した。さて、最終話ですべての伏線がクライマックスに統合される。ナチス宣伝映画のこけら落としに集まった、ヒットラーを始めとするナチス…
2015年1月7日 / 最終更新日時 : 2023年4月7日 戎崎 俊一 書評 独裁体制から民主主義へ:権力に対抗するための教科書 ジーン・シャープ著 独裁政体制から非暴力的に政権を取り返すためのノウハウが書かれている。この本を参考に多くの独裁国家の民主化が成し遂げられたという。「仲間を作る」「会合を開く」「意識の高いコア集団を組織する」「プロパガンダ文書を印刷して広く配る」「海外と連携する」「デモンストレーションを企画する」とここまで読んでふと気が付いた。私が今やっていることとあまり違いはない。科学革命、つまり新しい科学のパラダイムを考え出して、科学界に広く認めさせることの具体的手段は、政治的革命のそれと似ているのは必然的であろう。命の危険は多く…
2015年1月6日 / 最終更新日時 : 2023年4月7日 戎崎 俊一 書評 中原中也 大岡昇平著 中原中也の評論である。二人は尊敬と反発をないまぜにしたような激しい親交を結んでいた。中原は天才であった。大岡は普通人であった。天才は普通人が見えないものを見、聞こえないものを聞くことができる。天才は、それができない普通人を、哀れみ、侮蔑し、揶揄さえもする。普通人は、それに傷つき、反発し、しかしその天才性に引き付けられてゆく。一方で、田舎者で無学である(大学に入れなかった)中原は、東京生まれの大学生の友人に憧れ、羨んだ。社会に受け入れられない自分に僻んだ。中原の交友関係は、有名な小林秀雄とのそれも含め…
2015年1月6日 / 最終更新日時 : 2023年4月7日 戎崎 俊一 音楽映画評 Now & Then, Carpenters カーペンターズのあまりに有名なアルバムを購入して聞いた。中学に入学すると同時に英語の勉強に必要という名目で買ってもらったラジカセ。英語はそっちのけでラジオから流れてくるポップミュージックに夢中になってしまった。このアルバムの発表は1973年6月とあるから、私が15歳を迎える年の初夏ということになる。確かに、天気の良い初夏の日曜日にラジオからイエスタディ・ワンスモアが聞こえたときのことを鮮明に覚えている気がする。その後数カ月にわたって、このアルバムの曲がヒットチャートを席巻した。このアルバムの真の特徴…