心の仕組み スティーブン・ピンカー著

進化心理学という分野がある。人類の進化の中で、心がどのように発達してきたのかを調べる学問である。ピンカーは、進化心理学の旗手の一人とされている。この本における彼の主要な主張は、「心は、狩猟採集生活に適応するために進化してきたニューラル・コンピュータである」ということだ。人間は、狩猟採集生活を通じて「自然物」「生物」「自分の運動」「相手の心理」「論理」「数」などを取り扱い、その次の動きを予測するための「モジュール」を発達させたという。個々のモジュールは、ある程度独立して働きゆるく結合されている。このようなニューロンベースの演算システムの総体が心だとピンカーは主張している。
この理論をベースに、人間がなぜ家族関係、愛、夫婦、友情、宗教、芸術などを持つのかが、進化心理学的を使って説明されてゆく。その説明にはかなり説得力がある。一方で、これらをどれだけ科学的に証明できるのかについては、著者の主張を全部鵜呑みにはできない気がした。心理的な実験は、セットアップによってどのような結論でも出せる部分があるからだ。実際、本書のなかでも、人類学の初期の研究の重要な部分に、研究者の思い込みによるバイアスがかなり入っていたことが語られている。

一方、もし、心がたくさんだが有限個のモジュールが緩く結合したニューラル・コンピュータだとするならば、それらをシリコンベースで実際に作ってみて、どこまで人間の心理を再現できるかを確認して行く実験も可能だという気もしてきた。