土曜日は休みにあらず 将来のために戦略的に利用しよう

 週休2日制が始まって30年近くになるように思う。それ以前は、土曜に学校は午前授業、役所やほとんどの会社も午前中は通常営業し、午後だけ休みだった。この“半ドン”曜日の存在はなかなか味があり、午前中の業務の後、放置していた事項を片づけたり、勉強したりするのに便利だった。学校では、土曜の午後はクラブ活動や先生方の研修が盛んに行われていたと思う。

 私が、東大の大学院生(理学系大学院天文学専攻)の頃は、指導教官の杉本大一郎教授が駒場から本郷の天文学教室に来られて、学生や共同研究者(多くは卒業生)が集まり、午後半日セミナーを行っていた。そこでの議論は、活発かつ激しいもので、入学して最初に参加した当初は目まいがしたくらいだ。私が最初に発表させてもらったとき、私がしゃべったのは最初の10分ほどで、私が出した結果をめぐって先生と先輩たちが、延々と議論を勝手に続け、勝手に結論を出し、「分かった。君、次はこうしなさい」と指示されたのを今でもよく覚えている。

 その小一時間、先生と先輩の間で交わされる速攻の議論のほとんどを理解できず、もちろん一言も発言させてもらえず、途方に暮れて呆然(ぼうぜん)と立っていた。しかし、この土曜日のセミナーは私にとってかけがえのないものとなった。研究戦略の立て方、シミュレーション手法、論文の読み方や書き方、論文レフェリーへの対応法、共同研究の作法など研究者として重要なことは全部そこで身につけたように思う。先生は、学務や会議から解放されて、天体物理学の議論に没頭できる数時間を楽しんでおられたと思う。

 近頃では、週休2日制は完全に定着し、土曜日も当然の権利として休む人がほとんどだ。今や、日本は祝祭日の日数は欧米諸国に比べても多いように思う。それらと週休2日を全部休日として使うとなると、「日本人は一体いつ働くのだ?」というような疑問が湧いてくるほどだ。実際、理研で一緒に働く外国人は「日本人が勤勉なんて嘘だ。休日と祝日だらけではないか」と指摘している。かといって、完全に定着した週休2日制をいまさら土曜半ドンに戻すのは、難しいようにも思う。

 そこで、土曜日を休みの日と考えず、戦略的に使うことを個々で考えてはどうだろうか? つまり、通常は出来ないまとまった仕事や勉強をする、少々骨のある本を読破する、作業ツールの整備をする、英語やソフトウエアの講習を受けて自分のスキルアップに努める、学会活動や講習会に参加する、ボランティアや社会活動に参加する、真剣な趣味に没頭する-などを戦略的に行う日にするのだ。

 これらの活動は、直接仕事には関係しないかもしれないが、人生を豊かにし、人的ネットワークを広げる。こうした経験は、非常事態に役に立つものだ。

 もちろん、子育て中や介護中など重い負担を抱えている場合は、土曜日も関係なく作業を行わざるを得ないだろう。それはそれでよいと思う。そのような苦労の経験は、人間を成長させ、必ず将来役に立つはずだ。

 土曜日は休みにあらず。将来の自分のため、家族のため、社会のため、世界のために戦略的に使う日としよう。

フジサンケイビジネスアイ 高論卓説 2016年1月22日