地球型惑星への揮発成分降着の歴史: Volatile accretion history of the terrestrial planets and dynamic implications
地球、火星、金星は、非常に違う歴史を持っている。地球はプレートテクトニクスが活発で、液体の海があり、生命が育まれている。火星は、大気は薄く、明白なプレートテクトニクスの証拠はなく、水圏もなく、生命の手掛かりはない。金星は硫酸の雲を持つ分厚い二酸化炭素の大気で覆われており、その表面は灼熱の地獄である。生命を語るとき最初に問題になるのが液体の水の存在である。水の存在は、惑星マントルの粘性学的な性質を変えて、プレートテクトニクス起動の条件を与える。最近の動力学的な計算は、太陽系内部(太陽のそば)にあった原始惑星は、乾燥条件で生まれ、後になって成長した巨大惑星が、氷に富んだ小惑星の軌道を乱して内側に送り込み、水を運ばせたことを示唆している。
Albarede 2009は、地球と他の地球型惑星の揮発成分の少なさの理由は、それが揮発によって失われたのではなくて、惑星を作った材料物質のへの凝集が不完全だったことが原因だったと考えている。
地球は、表面の液体の海、いろいろな形の表層水、そして、鉱物の中の含水鉱物の形で存在する。90kmを超える深さでは、水はセリウムのような不適合元素と同じような振る舞いをする(Mitchel et al. 1995)。H2O/Ce比は、それぞれ上部と下部マントル物質からの溶融物からつくられた中央海嶺玄武岩でも、海洋島玄武岩でもだいたい200である。このような強い制限により、マントルにある水の総量は海洋の総量と同じぐらいで、マントル全体の150-350ppmであり、海も含めたときの総量は、300-550ppmである(Saal et al. 2002; Marty and Yokouchi2006)。
惑星は太陽系星雲から凝縮した固体成分が降着して作られる(Wyatt 2008)。原始太陽が放出する強い電磁風が太陽系星雲を吹き飛ばしてしまうので、固体粒子がなくなってしまうだいぶ前にガスがなくなってしまう。地球を形成するほとんどの固体成分は「雪線」の内側にある。これはこれより外側では水が凝縮する境界である。揮発性の指標としてよく使われる値はT50である。つまりその元素が50%揮発する温度のことだ。ここで、難揮発性のウラニウム(T50=1610K)とより揮発性の高いカリウム(T50=1006K)を比べよう(Lodders 2003)。K/U比は惑星の揮発元素が難揮発性元素に対してどれくらい少ないかを見る指標となる。太陽の光球(したがって太陽系全体の平均)ではK/U比は60,000であり(Tayler 1984)、地球ではだいたい10,000である(Jochum 1983; Wassenburg 1964)。これは、地球は85%、Kが少ないことを示している。一方で、月のK/U比は3,000で欠失が95%に達していることを示している。火星隕石のK/U比は、落下してから採取されるまでの長期の変成を考慮しても<20,000である(Lodders 1998)。また、92-98%の欠乏ががZn、Ag、As、Sb、Sn、Pbそして最も重要なことにSにみられる(Dreibus
and Paime 1996; O’Neil and Palme 1998)。
揮発性元素の欠失を説明するためには、揮発性元素が凝集するに十分なほど温度が下がる前に、太陽系星雲のガスが太陽からの高エネルギー放射により、吹き飛ばされたと考える必要がある。ほとんどの元素は、非常に狭い温度範囲で凝集する。その結果、ある特定の揮発性を持った一群の元素の凝集率は温度が下がるにつれて、階段状に変化する(Lodders 2003; Grossman 1972; Larimer 1967)。白金族元素、Al、Ti、Zr、Wとほとんどの希土類元素とアクチノイド元素は超難揮発性で1600K以上で凝集し、コンドライトの難揮発性包有物に豊富に含まれている。それに続くのは、Si、アルカリ土類、遷移金属などの難揮発性親石元素で、1300Kで凝集し、コンドライトに典型的に見られる。次に、揮発性が高いのは、1150-850Kで凝集する高温親銅元素(As、Ga、Ge、Cu、Ag)、塩素とアルカリ元素(Li、Na、K、Rb、Cs)である。。低温親銅元素(Pb、Bi、Sn、Zn、Cd、Te)とその他のハロゲン元素はさらに揮発性が高い。残りの最も揮発性の高い元素は、N、C、Hgである。若い太陽の電磁放射が星雲のガスをまだ温度がのアルカリ元素の凝集温度(800-1000K)時に吹き払い、それよりも揮発性の高い元素の凝集を妨げたのだ。
一方で、雪線の外側では水と揮発元素はたくさん存在する。レイトべニア仮説は、アステロイド帯にあるCIコンドライトが、地球の固化後のある時に少量加わったとするものある(Chou 1978)。これは、白金族のような現在の高度に親鉄性の元素の過剰を説明するために考えられた。上に議論したように、ほとんどの揮発性元素の欠失は、低温のCIコンドライト物質の降下が2-5%以下でなければならないことを示している。それは、地球の水の総量を説明するのに必要な0.3%の付加よりもかなり多い。
惑星成長は以下の三段階に分かれるとされている(Wetherill 1986)。1)塵の惑星系星雲の赤道面への沈降とキロメートルサイズの微惑星の形成、2)微惑星の火星サイズの原始惑星への暴走的成長、3)原始惑星どうしの合体による現在の質量への成長。いつ、ガスが吹き払われたのかはよくわからないが、ガスがない固体粒子の円盤が3Myrぐらいで自壊してしまうことを考えると、惑星はガスが吹き払われる前にかなり成長したと考えられる。
D/H比が3×10^-4の彗星(Bockelee-Morvan 1998)による水の供給は、地球の海洋のD/H比(=1.5×10^-4; Huebner 2000; Lecuyer et al. 1998)を説明できないので、炭素質コンドライトが地球の水の源であると考えられる(Drake and Righter 2002; Robert 2001)。太陽系内での成長中の原始惑星の軌道は数値計算で調べられている(Raymond et al. 2006)。星雲のガスがある間は、地球軌道のような内側の太陽系では温度が高くで、水は凝集できななかった。このような時期、成長しつつある原始惑星への降着は局所的で、雪線の内側では、ほとんど水なしだったと考えられる。月形成の巨大衝突時に地球が湿っていてかなりの量のレイトべニアがあったとすると月のマントルが地球に比べて揮発性元素が少ないことがうまく説明できない。
水の降着のメカニズムは、3つの重要なイベントの相互時間関係によっている。それは、地球のコアの形成、月形成の巨大衝突、そして、レイトべニアの到着時期である。地球と月のケイ酸塩の中の182Wの超過が同じであることは、巨大衝突がカルシウムとアルミニウムに富む包有物の形成から60Myrに巨大衝突が起こっていることを要求する(Touboul et al. 2007)、衝突した二つの物体がほとんど同じHf/W比を持っていない限りは。もしそうだとすると、その時間は30Myr以内になる(Klein et al. 2002; Yin et al. 2002)。
PBはT50=725KでZnと同じような揮発性元素だから、レイトべニアがあるとPb-Pb年代測定に影響を与えるはずである。実際、地球の古い長石と方鉛鉱の年代は太陽系の年齢よりも50-160Myr若い(Alberede et al. 1984)。放射性起源のPbの集積が遅れているということは、コンドライトのような238U/204Pbが非常に低い小惑星が、揮発性元素が欠乏している原始地球に衝突したと考えるとよく説明できる。月のマントルの238U/204Pb比は、現在の地球のマントルの200-600倍で、CIコンドライトの1000-10000倍である。これは、地球のPbの99%がレイトべニアで付加されたことを示している。
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