デルタ株の感染とエアコン

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日本では9月に入りデルタ株の割合が減少しました(左)。その理由に関しては、専門家も頭をひねっているようです。その議論をしていた時に、和田さんが、「もしかしたらエアコンの稼働と関係があるかもしれない」と言い始めました。

そこで、戎崎は東京の2021年の5月-9月の気温の変化を調べてみました(右:気象庁の公開データ)。2021年の6月上旬にセ氏30度を超える真夏日が始まりました。このころ、エアコンの冷房を入れ始めたと思います。その後一旦、最高気温が30度を切るようになります。関東の梅雨入りが6月14日ごろということですのでそれに対応していると思います。この頃から湿度が上がって不快指数が高くなったので、気温が低めでも冷房を使い続けたと思います。そして7月中旬に梅雨明けし、真夏日が続くようになりました。

一方、9月始めに台風が襲来し、最高気温が一気にセ氏20度程度まで下がります。台風一過後、最高気温が25度超に戻りますが、セ氏30度超に慣れた我々は、セ氏25度でもあまり暑いとは感じないで冷房はあまり使わなくなったと思います。

これらを振り返ってみますと、右図で灰色で塗った期間が、冷房が盛んに使われた時期と考えられます。

一方、デルタ株の割合は、6月上旬後半(6月7日-13日)に急激に立ち上がり、9月になると急激に減少に転じます(左図)。このデルタ株の活動期は、上に述べた冷房期(灰色で塗った時期)とよく一致しています。また、8月中旬に、台風の来襲で気温が数日下がったことがありました。デルタ株も割合もそれに対応する時期少しだけ減少しているようにも見えます。

では、冷房がなぜデルタ株の感染を助けるのでしょうか?和田さんと私が考えた作業仮説は以下のようなものです。まず、室温がセ氏30度、エアコンが吐き出す冷風がセ氏20度だったとしましょう。セ氏30度における飽和蒸気圧は20度におけるそれの約2倍です。したがって、相対湿度70%のセ氏30度の空気をそのままセ氏20度まで冷却すると、容易に露点に達します。つまりエアコンからの冷風は相対湿度が100%にかなり近いことが予想されます。

一方、感染力が高いデルタ株の感染は、1ミクロン以下の小さなアエロゾルを通して起こります。このようなアエロゾルは、エアコンからの冷風のような湿度100%に近い空気の中では長期にわたって生き残り、部屋の中で瀰漫すると考えられます。これが、デルタ株の感染を助けた可能性があります。相対湿度が低いと、小さなアエロゾルは、早々に水分を失って消えてしまいます。

デルタ株は、インドで発生したと聞いています。かの国では非常に暑いので定常的にエアコンを稼働させているに違いありません。そのような環境で進化したデルタ株は、エアコンからの冷風に助けられて感染を繰り返してきた可能性があります。

和田さんは、この作業仮説を確認するための実験を企画しようと考えています。来年の6月ごろまでにデルタ株に対する有効な対策を策定し、実行に移しておかなければなりません。

また、冬になると再びエアコンがフル稼働を始めます。今度は、セ氏10度の空気をセ氏20度に温めるわけなので、相対湿度が非常に低い暖風がエアコンから噴き出てくるわけです。この時コロナウィルスの感染がどうなるのかは心配なところです。それに関する考察は、稿を改めて。