ウィルスと相対湿度:この冬をどう過ごすか

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呼吸器疾患を起こす病原体(細菌やウィルス)の活性維持能力(viability)は、環境の相対湿度に強く依存します。上図は横軸に相対湿度、縦軸に活性維持能力を取った模式的な図です。細菌は、相対湿度が下がるにつれて、活性維持能力が落ちてきますが、ウィルスは、相対湿度が50-80%のところに活性維持能力の極小があり、そこから相対湿度が増えても、減っても活性維持能力が増加することが知られています。ただし、ウィルスによってその特性曲線の形かなり違うらしいことがわかっています。

呼吸系疾患の病原体は、感染者の口から会話、発声、咳、くしゃみなどの際に排出される唾液滴の中に入っています。それが活性を保ったまま新しい宿主の呼吸器にたどり着くと感染が起こります。この唾液の水滴は空気中で水分を失いますが、その速度は周りの相対湿度で決まります。相対湿度が100%に近いと、唾液滴の水分が長時間保たれるために、その中の病原体が長期にわたって活性を維持します。細菌の場合は、水分がなくなると唾液滴内の塩分濃度などが急上昇して、死んでしまうので相対湿度が低くなると一方的に活性維持能力が低下します。これはよくわかります。

ウィルスも100%から相対湿度が減ると一旦は活性維持能力が減ります。これは上記と同じです。しかし謎なのは、相対湿度が50%を切ると、再び活性維持能力が増加することです。多分、瞬間的に乾燥してしまうと、それなりに安定化するウィルス粒子が少数ながら存在するのでしょう。これらが新しい宿主の呼吸器に入って水を得ると、活性を復活するのではないでしょうか?このような乾燥安定化ウィルス粒子が、相対湿度が低いところでの活性維持能力の増加に寄与しているのかもしれません。

Covid-19ウィルスの相対湿度特性は、まだよくわかっていません。今後これをきちんと測定する必要があります。変異株によっても違いがある可能性があります。少なくともデルタ株は、湿度100%に近い環境に適応した感染経路を持っているようです。冬になって、より乾燥した環境にデルタ株がどう反応するかを注視する必要があります。

また、ウィルスの感染性は気温にも強く相関します。気温が低いと我々の呼吸器の表面の粘膜の粘性が上がって、異物の排出による防御機構が崩壊します。気温は15℃程度に保つのが防御機構の維持には重要です。

これらの情報をもとに、私は以下のように行動したいと考えています。

1)機会があれば早期に三回目のワクチン接種を受ける。

2)外気温が下がれば暖房を使い室温が15℃以下にならないように気を付ける。ただし、湿度に注意し、相対湿度が60%を切らないようにする。

3)エアコンの気流は控えめに設定する。また、エアコンからの暖風(相対湿度が非常に低いと想定される)が体に直接当たらないような工夫をする。

4)複数人が一つの部屋に滞在するときには、各自マスクを必ず着用する。また、適切な換気を心掛ける。さらに、ウレタンマスクは使わない。最後に、ウレタンマスクを装着した人のそばには近づかない。

5)外出時は、マスクを常時つけて、呼吸器の保温と保湿に務める。また、ビタミンCを多めに取り。呼吸器の防御機能維持に努める。

よく考えると、大部分は日本人が昔からやってきた冬の風邪対策そのままです。今年の冬もこれをより入念に行えば良いということです。

ではお大事に。