阿部詩さんおめでとう:今、女子柔道が面白い
阿部詩さんが女子柔道52kg級で金メダルをとった。彼女が決勝で一本を取った抑え込みは非常に特殊な入り方をしていた。この試合の前半でも狙っていた。一回目は、相手にまだ体力があったから逃げられたが、二回目は相手の体力が尽きて押し切れた。柔道、特に寝技はスタミナ勝負の面がある。
相手は、足取りや肩車に低く来て、そのまま寝技に引き込まれて時間をロスするなど苦手としていた選手だったようだ。その問題を克服するために寝技を磨き上げた。それにしても、オリンピックの檜舞台で難敵相手にこの技を決めるためには、ものすごい量の練習が必要だったはずだ。詩さんの「努力がやっと報われた」というコメントは千金の重みがある。おめでとう。
調べてみると、詩さんが使った抑え込み技は、舟久保遥香という女子選手が17歳(当時高校生!)のときに発明した技で、「船久保固め」といういう新技らしい。
この技の特徴は、まずその入り方にもある。高専柔道の「腹包み」の応用だ。まず相手の襟を掴む(立ち技の連続ですでに持っている場合が多い)、次に、もう一つの手で腹の向こう側の胴着の端を下から掴む。これらの準備の後、腹ばいの相手を後ろ方向に崩して、相手の体をまたぎ、反対側で肩の下に自分の頭をおいて、固めに移行する。
もう一つの特徴である固めの形態では、相手が胴着で縦横に縛られ、さらに体の動きの急所である首が押し上げられ、身動きできない(多分極まると息もできなくなる)。抑えの原理は縦四方固めに近いが、馬乗りにならないので、かえって始末が悪い。じたばたしても相手の体は自分の脇下あたりに位置しているので力が伝わらないのだ。最小の準備で入れる迅速さと決まったら絶対に逃げられない完全さを併せ持つ恐ろしい抑え技だ。
船久保さんの試合のビデオをみると、縦四方固めに移行するなど色々な変化があり極めて興味深い。船久保さんはまだ20歳。すさまじい逸材だ。
https://www.youtube.com/watch?v=eEWn4g0_KwU
日本の女子柔道は、寝技中心の高専柔道の技を取り込み独自の進化を遂げつつある。きわめて興味深い。
余談になるがに、阿部詩さんのお兄ちゃん一二三さんが金メダルを決めた技は、「袖つり込み大外刈り」ともいうべき技だ。教科書にはない。彼の独創だろう。彼の後輩がコメントしている。
https://togetter.com/li/1749986
メディアも、兄妹同時受賞を報道するだけでは能がないと思う。この二人がどれだけの努力して、この1年を過ごし、独創的な技を複数用意して、この結果にたどり着いたことをきちんと説明すればもっと面白い記事になると思う。
2021年7月26日