水中核爆発による津波について
ロシアが開発中の核魚雷ポセイドン(約5Mt)による津波のことが巷で話題になっているようなので、定量的に評価してみた。水中核爆発の場合、発生したエネルギーは大部分水の気化に使われる。水が蒸発で失われる半径Rは、
R=(3E/4πU)^(1/3)=78 [m](E/TNTMt)^(1/3)
と評価できる。ここで、E は爆発エネルギー、U=2.5×10^9 J/m^3は、1立方メートルの水を蒸発するのに必要な気化エネルギーである。このサイズ泡ができ、それが上空に抜けると、それを埋め合わせるように周りから水が流れ込んでくる。Mtクラスの核爆発が水中で起こると、その直上の水面に、半径約100 m、高さ約100 mの波が立つことになる。
これが円環上に広がりつつ海面を伝搬してゆく。その高さは伝搬距離に反比例して小さくなる。つまり、波高hは、以下のように書き表せる。
h=6.1 [m](D/1km)^(-1)(E/TNTMt)^(2/3)
ここで、Dは爆心からの水平距離である。5Mtの場合、1kmの距離で約18m、10kmの距離で約1.8mの高さとなる。距離10kmで通常の防波堤で対応可能(ほぼ安全)な津波波高となる。もちろん、海岸近くでは、地形効果による増幅も考慮しなければならない。
水中爆発では、核の灰(放射性の核分裂生成物、ストロンチウム90、セシウム137、ヨウ素129、131)の大部分が水中に捕獲されるので、空中に放出され風に乗って広範囲に広がる成分が相当減る。また、水中の核の灰は急速(1週間程度)に微生物の体内に取り込まれて、水底に落下し、水中から取り除かれる。これらのことを考えると、同じ規模の爆発ならば水中核爆発の方が空中爆発よりもずっと被害が少ないかもしれない。
核爆発は恐ろしいが、核魚雷の水中爆発をことさら恐れる必要はない。