大型類人猿の祖先におけるセグメント重複バースト
図1: セグメント重複バーストが人類・チンパンジー共通祖先とゴリラの分岐(600-800万年前)以後に始まっている。一方、東アフリカ大地溝帯の形成は約1,000万~500万年前に始まった。
全ゲノムの比較から、大型類人猿においては、塩基配列セグメントの重複の頻度が他の霊長類よりも4-10倍高いことが分かった。(Johnson et al. 2006; Marque-Bonet et al. 2009; Marque-Bonet et al. 2009)。このセグメント重複バーストは、人類・チンパンジーの共通祖先とゴリラの分岐(600から800万年ごろ)以後に起こっている。これは、東アフリカ大地溝帯の形成が約1,000万~500万年前に始まったことと調和的である。
セグメント重複は、放射線その他の理由で起こったDNAの二重鎖切断の修復の際に、よく似た別の場所の配列同士を間違えてつなげてしまう修復エラーによっておこる。この後、減数分裂時に片方に同じ遺伝子配列の繰り返し(1対の対抗する配列:タンデムコピー)、もう一方はその分の欠失が起こる。遺伝子が欠失したゲノムを持った方の胚はその発生の初期の段階で死亡する確率が高い。重要遺伝子の欠失は致命的になることが多いからである。このため、次の世代では平均的にはコピー数が増えることになる。
セグメント重複バーストにより、類人猿では
1)新規遺伝子が誕生する(重複→配列置換により一方が新規機能を獲得)
2)ゲノム内の同じ遺伝子の数が増加する(これで大型化を可能にしたのかもしれない)
3)ますますゲノムが不安定になる(コピーが増えると遺伝子修復エラーが増加)
などの複合効果で急速な進化が起こっていると考えられる。
セグメント重複バーストの原因は、まだ上記の論文でも議論されていない。DNA二重鎖切断が頻繁に起こればいいことを考えると、環境放射線の増加が一つの候補である。チェルノブイリ近傍の放射線汚染地帯でも小型げっ歯類において遺伝子の不安定化が観測されている(Baker et al 1996)。このような、環境放射線増加は、東アフリカ大地溝帯の形成によるカーボナタイト火山の噴火のせいかもしれない。カーボナタイトマグマの放射線同位元素濃度は一般に高い。
人類進化に関する分子遺伝学的なレビューは、Bradley2008に与えられている。
1)Johnson、M.E. et al., 2006, Recurrent duplication-driven transposition of DNA during hominoid evolution, PNAS, 47, 17626.
2)Marque-Bonet, T. et al., 2009, A burst of segmental duplications in the genome of the African great ape ancestor, Nature, 457, 877.
3)Marque-Bonet et al., 2009, The origins and impact of primate segmental duplications, Trends in Genetics, 25, 443.
4)Baker RJ et al. 1996, High levels of genetic change in rodents of Chernobyl, Nature, 380, 707-708.
5)Bradley, B.J., 2008, Reconstructing phylogenies and phenotypes: a molecular view of human evolution, J. Anat., 212, 337–353.