真核生物の起源:微生物マット社会の裏切り者: Origin of eukaryote: a social cheater in a biomat

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図1:さまざまな粘液細菌の微生物マット

微生物マットは、細胞から分泌された基質で覆われた単一もしくは複数の微生物種の集団によって構成されており、以下のような明解な発達サイクルを持つ。微生物マットは一つの細胞が固体表面に接着することから始まる。この細胞は細胞外基質を分泌しつつ増殖して成長する。最終的には成熟して、層状の構造が発達する。つまり内層と外層では細胞の形態と遺伝子発現パターンが違うようになる。成熟した微生物マットの中には栄養と水分を交換するための通路ができる。成熟した微生物マットからは芽胞が放出される。これらは別の場所で次のサイクルの新しい微生物マットを作る(Venicer and Vos 2009)。

微生物マット内の細胞にとって、微生物マットに参加する利益は、捕食機会の減少、抗生物質や有毒な環境への抵抗性の増加、より有効な資源利用があげられる。一方、その社会的負担には、発達シグナル物質や、細胞外基質物質、消化酵素の合成と、利他的な自己犠牲がある。利他的細胞は、芽胞放出細胞への栄養の供給のために、自己融解する。この自己融解は微生物マットの成熟に応じて自律的にトリガされる場合と芽胞を作る細胞が毒素を分泌してトリガする場合がある。

すべての社会的なシステムと同様、微生物マットの公共の利益は、自己的な裏切り者によって台無しにされる。彼らは、利益だけ享受して、負担を担わない。その結果、裏切り者は早く成長し、芽胞もを次のサイクルに向けてより多く放出できる。真正細菌および真核微生物の微生物マットにおいて、このような裏切り者の発生が実際に記述されている(Venicer and Vos 2009)。

Jelely 2007は、真核生物の共通祖先はこのような微生物マットの社会的裏切り者から出発して、以下の過程を経て食胞機能を獲得したという仮説を提案した。

1)裏切り者細胞=原真核細胞の出現
微生物マット中で、利他的自己融解が抑制される遺伝子変異を持つ細胞が現れた。この裏切り者細胞は、他のホスト細胞の利他的自己融解による利益を一方的に享受する。さらに、ホスト細胞の利他的自己融解を積極的にトリガする機構を持つようになった。

2)細胞壁喪失
裏切り者細胞=原真核細胞が増殖しその負担が増加するにつれ、ホスト細胞も対抗して自衛手段をとるようになった(Manhes and Velicer 2011)。それは、抗菌剤(抗生物質)を生産して分泌することだった。ペニシリンをはじめとするβラクタム系の抗生物質は、細胞壁の合成を抑制して細胞の増殖を不可能にする。細胞壁の合成が抑制されたにもかかわらず増殖をした裏切り者細胞=原真核細胞は、細胞壁を失った。微生物マットの中は、浸透圧的、化学的、機械的な外乱に対して守られた環境にあるので、裏切り者細胞=原真核細胞は細胞壁なしでも何とか生き残ることができた。

3)消化酵素分泌による栄養分の吸収
原真核細胞は、さらに細胞壁を消化する酵素を分泌し、ホスト細胞を溶解するようになった。溶解による栄養分を拡散で吸収する。微生物マットの中は流れが抑制されており、消化酵素と栄養素を失う危険は少ない。

4)細胞内骨格系の発達
チューブリン繊維による細胞内骨格系が発達し、能動的な小胞体輸送が可能になった。最初の細胞内器官は細胞膜につながった分泌性の細管だった。このおかげで消化酵素の分泌と栄養素の吸収が効率的になった。

5)運動能力の獲得
アクチンによる突出、粘着、感知、伝達が可能になり捕食の効率を向上した。原形質運動により、微生物マット内を能動的に動き、さらに他のマットまで移動するようになった。

6)食胞機能の獲得
獲物を細胞内に飲み込む食胞機能を獲得し、消化酵素の分泌と栄養素の吸収がより効率的になった。

1) Jekely G. 2007, Origin of phagotrophic eukaryotes as social cheaters in
microbial biofilms, Biology Direct, 2, 3.

2) Venicer, G.J. and Vos, M. 2009, Annu. Rev. Microbiol., 63, 599-623.

3) Manhes, P. and Velicer, G.J., 2011, PNAS, 108, 8357-8362.