放射線の非標的効果

放射線に被曝した細胞核のみではなく、被爆していない周りの細胞核や娘細胞にも放射線の影響が現れる。これを放射線の非標的効果と呼ぶ(Ilnytskyy and Kovalchuk 2011)。放射線損傷の記憶は、被爆した細胞の子孫にもゲノム不安定になりやすい形質として保存される。同様の形質が被爆した生殖細胞からできた胚においても発現し、それが大人になっても維持される。

非標的効果には、DNAメチル化、ヒストン修飾、そして小RNA分子に媒介された遺伝子発現抑制の3つのエピジェネティック機構が関与していると考えられている。オスとメスのマウスにおいては、0.5Gy-5Gyの被爆によりDNAメチル化の減少とDNAメチル基転位酵素、メチル-CpG結合たんぱく質の発現が抑制される。これにより、メチル化で発現が抑制されていた遺伝子、特にトランスポゾンが活性化する。また、DNAの二重鎖切断のすぐそばでは、ヒストン修飾とクロマチン構造が変化している。さらには、放射線被爆後には小RNA分子の発現パターンも、大きく変わる。

1) Ilnytskyy, Y. and Kovalchuk, O., 2011, Non-targeted radiation effects? An epigenetic connection Review Article Mutation Research/Fundamentaland Molecular Mechanisms of Mutagenesis, Volume 714, Issues 1-2, 1 September, Pages 113-125.