哺乳の起源と進化:Origin and evolution of lactation

哺乳はすべての哺乳類(単孔類、有袋類、真獣類)の生活の中で重要な意味を持っている。乳の分泌はsynapsid(哺乳類の共通祖先)における皮膚分泌としてペンシルベニア紀(310Ma)に始まった(Oftedal 2002, 2011)。synapsidの卵は、乾燥に対する抵抗性が少ない皮状の殻の中に置かれ、分泌性の皮膚分泌に水分の補給を頼っていた。哺乳分泌物はアポクリン様分泌物として進化し、毛嚢に付随した分泌として発達したと考えられる。

乳の成分の分子遺伝子解析は、哺乳類が成立する前に、栄養に富む乳状分泌物として進化したことを示している。様々な抗菌性の分泌物成分は、若い個体への栄養補給という新しい機能を持つようになった。カルシウム結合性燐酸結合たんぱく質は、もともと卵へのカルシウムと燐酸の供給機能を持っていた。それが、大きくて複雑なカゼインミセルに進化して、哺乳類の乳において、アミノ酸、カルシウム、燐酸の輸送に重要な役割を果たすようになった。カゼインは、カルシウム結合性たんぱく質(SCPP)と呼ばれるたんぱく質族のメンバーである。SCPPたんぱく質族は、上皮分泌細胞や外胚葉性間葉組織から派生した細胞(歯など)で分泌され、脊椎動物の組織鉱化の進化に絡む古い歴史を持っている。α-カゼインとβ-カゼインは、祖先形の遺伝子であるCSN1/2(この遺伝子自身はODAMもしくは
SCPPPQ1から派生した)の遺伝子重複とエクソン交換によって作られた。κ-カゼインは、FDCP(これもODAMから派生した)から作られた(Kawasaki et al. 2011)。

ODAMやSCPPPQ1から派生した多くのSCPPタンパクが、哺乳類のエナメル芽細胞で発現し、歯のエナメル質のに関与している。Kawasaki et al.(2011)はカゼインの祖先形SCPPたんぱく質は、卵の表面へのカルシウム供給の制御と皮状の卵殻におけるリン酸カルシウムの沈殿を防止する機能を持っていたと考えている。

ブチロフィリン(乳腺刺激たんぱく質)とキサンチン酸化還元酵素(XOR)は乳脂肪粒の合成に必須である。ブチロフィリンは免疫グロブリン超たんぱく質族のメンバーであり、二つの免疫グロブリン領域を持つ。もともとは分泌細胞の細胞膜貫通たんぱく質で、局所的な免疫反応に関与していたものが、もともとの機能を失って乳脂肪粒の形成に役割を持つようになったと考えられている。XORはモリブド・フラボ酵素族のメンバーでその祖先形は真正細菌まで遡ることができる。哺乳類においては、XORは、キサンチン脱水素酵素として合成されたが、後にキサンチン酸化酵素に変換された。これは、窒素化合物のラジカルや高反応性物質を作り、多くの生物の抗菌活動において重要な役割を持っている。

乳脂肪粒の分泌は四足動物もしくはsynapsidの皮膚分泌から進化したと考えられる。実際、現生のカエルで水抵抗を抑えるために、脂肪酸を分泌する例がある(Lillywhite 2006)。また、脂肪酸の分泌は乾燥に対する抵抗性が向上させる(Oftedal2002)。

哺乳類の乳は糖を含んでいる。哺乳類の分泌細胞においては、乳糖の形成はαラクトアルブミンを得て開始する。αラクトアルブミンは、C型リゾチームに似ており、遺伝子重複と基質ペア交換挿入によって派生したと考えられている(Brew 2003)。その時期は、synapsidとトカゲ形類の分岐(310Ma)の前と推定されている。C型リゾチームは上皮分泌物と卵白の抗菌成分であった。αラクトアルブミンはその抗菌作用を失った代わりに、乳糖の分泌に関与するようになった。

β-ラクトアルブミンは主要な乳清タンパクである。β-ラクトアルブミンはリポカリンと呼ばれる大きなたんぱく質族のメンバーである(Akerstrom et al. 2006)。このたんぱく質は疎水性の化学物質を輸送する機能を持っていた。哺乳類にいたって、もとの機能を失って、若い個体への硫黄の供給の機能を持つことになった。カゼインを含むSCPPタンパク質は硫黄の含有量が少ないので、子供の発育を最大にするためには硫黄を補わねばならない。

三畳紀の後期(210Ma)に哺乳類の祖先は、内温性(卵に水の損失を補う必要がある)、サイズが非常に小さくて(大きな卵が不可能)、急速成長をし、歯は一回しか生え変わらない性質を持っていた。したがって、ジュラ紀(170Ma)には、卵黄に代わって、若い個体の主要な栄養供給源となっていた。このように、乳のすべての成分は、すでに哺乳類が現れる前に進化しており、その一部はsynapsid(トカゲ形類と鳥類の共通祖先)にまで遡ることができる。

1) Oftedal, O.T. 2011, The evolution of milk secretion and its ancient origins,
Animal, 6, 355-368.

2) Kawasaki, K. Lafont, A., and Sire, J. 2011, The evolution of milk
casein genes from tooth genes before the origin of mammals, Molecular
Biology and Evolution, 28, 2053-2061.

3) Lillywhite 2006, H.B. 2006, Water relations of tetrapod integument.The Journal of Experimental Biology, 209, 202-226.

4) Oftedal, O.T. 2002, The origin of lactation as a wataer source for perchment-shelled eggs. Journal of Mammary Gland Biology and Neoplasia, 7, 225-252.

5) Brew, K. 2003, α-lactaalbumin. In advanced Dairy Chemistry-I Proteins. Part A (ed. PF Fox and P. McSweeney), pp.387-419, Kluwer Academic, New York, NY.

6) Akerstrom, B. et al. 2006, Lipocalins. Landes Bioscience, Georgetown, TX.