種分化に必要な孤立時間(世代数)
他から孤立した有効個体数Neの集団において、新しい染色体変異が固定するまでの時間を中立進化仮説に基づいて導いてみる。
このような集団における新しい変異の固定確率をuとすると、u=1/(2*Ne)である。1個体、1世代あたりの変異の発生率をμとすると、この集団で発生する染色体変異の数は2*Ne*μで与えられる。したがって、一つの変異がその集団に固定する頻度は、u*2*Ne*μ=μとなる(Kimura et al. 1968)。一方、一つの染色体変異が固定するまでには、平均4*Ne世代かかる (Ewens 1963)。したがって、平均的には
ts=max(4Ne, 1/μ)
世代の孤立の後には、その集団に新しい染色体変異が固定し、再接触時に染色体変異による生殖隔離機構が働き、種の再融合が妨げられて、種分化が確立する。
ts<10 を要求すると、Ne<2.5 かつ μ>0.1
ts<100を要求すると、Ne<25 かつ μ>0.01
となる。
10-100世代で種分化が成立するためには、小集団で孤立し、ゲノム不安定が発生してvが0.01-0.1/個体/世代まで上昇しなければならない。破局進化シナリオのみが、この二つの条件を自然に満たす。
Landeによると、現在μ=10^-3-10^-4/個体/世代と見積もられている。したがって、現在では、μが低いために、生殖隔離成立のためには、少なくとも1000から10000世代が必要である。1年1回の生殖を仮定すると、1000年から10000年が必要である。例えば、ガラパゴス諸島のフィンチが、自然選択による形態の多様化が進んでも、生殖が可能で生殖隔離が十分でなく孤立が解けると種が再融合してしまうのは(Grant and Grant 1997)、現在は、染色体変異の確率が小さすぎ、生殖隔離成立にはまだ至っていないからであろう。現在は、破局にはなく、自然放射能レベルも低いので、種の分化が起こりにくい。
1) Kimura M. 1968, Evolutionary rate at molecular level, Nature, 217, 624-626.
2) Ewens, W.J. 1963, The mean time for absorption in process of genetic type, J. Aust. Math. Soc., 3, 375-383
3) Lande R. 1979, Effective deme size during long-term evolution estimated from rates of chromosomal rearrangement, Evolution, 33, 234-251.
4) Grant, P.R. and Grant, B.R. 1997, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 94, 7768–7775.