アマゾン熱帯雨林の動物相の多様性の起源

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地球上で最も多様性豊かな動物相が、中央南アメリカの熱帯低地にみられる。この動物相は、アマゾン川流域を中心とし、西はアンデス山麓、東は大西洋岸、北はギニア高地、南はブラジル楯状地まで広がっている。Haffer(1967)は、このアマゾン熱帯雨林の鳥類相の多様性は、更新世とその後に起こった何度かの乾燥期にアマゾン熱帯雨林が、小さな森に分割されたことに起因していると提案した。これらの小さな森は、サバンナに囲まれてお互いに孤立してしまったものの、森林動物相の「避難所」として機能した。湿潤な気候が戻ると、これらの孤立した森は、また拡大して再結合し、森林動物相も同様にその生息域を拡大した。このような、分裂と再結合が第四紀中に幾度も繰り返されて、地質学的には短い時間でアマゾン動物相の急激な種分化を導いたと考えられる。

現在のアマゾン熱帯雨林地帯でも降雨量は一様でない。年間2500mm以上の雨が降る地域は(1)Jurua川、Orinoco川上流からアンデス山麓にかけての地域、(2)Madeira川上流からTapajos川にかけての地域、(3)南ギニアからアマゾン川河口にかけての地域である。領域(1)(2)と領域(3)は、Negro川、Purus川、Jurua川流域の少し乾燥した地域に隔てられている(図1)。

現在より乾燥していた時期も、この降雨パターンがあまり変わらなかったとすると、降雨量の少ない地域では森林が消滅してサバンナに覆われ、熱帯雨林は上記の降雨量の多い3つの地域に後退したと考えられる。この乾燥期には、現在ブラジル中央部に住んでいる非森林性の動物が北上し、ボリビア東部、アンデス山麓にまで到達したと考えられる。実際、非森林性の鳥類が、現在も森林内に残る孤立したサバンナの残骸に生息している。

逆に今より湿潤な時期は、アマゾン熱帯森林は、ブラジル中部(現在は非森林化している)を通してブラジル南東部の森と繰り返し結合した。このような森の橋を伝って、多くの植物種と動物種が交換された。これらの森林の残骸は、小さな湿潤ポケットに今でも残っていて、そこにはアマゾン動物が孤立して生息している。

乾燥期の後湿潤な気候が戻ると、熱帯雨林が拡大し、避難所の動物相も生息域を拡大して、かつて同種であった兄弟種と再接触する。種分化の進展状況により以下の3つの場合がある。
(1)地理的同居
地理的な隔離中における種分化が完全で、二つの兄弟種は、生殖隔離と生態学的にも非競合となった。この結果、二つの兄弟種は平和裏に同居し、生息域はある程度重なり合う。
(2)地理的排他
地理的な隔離中における種分化が不完全で、生殖隔離は成立したが、生態学的にはまだ競合している。この場合は、生態学的な競争により、雑種を作らない地理的な排他生息状態に至る。
(3)雑種化
生殖隔離も成立していない場合は、再接触領域に沿って雑種が生まれる。雑種化は、遺伝子プールの不適合性によりかなり狭くなる。雑種化域が広い極端な場合は、完全に再融合することもある。

アマゾンに現在生息する鳥類の分布から乾燥期における避難所として9つの場所が想定されている(図2)。主な鳥類の分布は、このような「避難所仮説」でほぼうまく説明できる(Haffer 1969; Haffer 2008;図3)。

アマゾンの森林動物相は第三紀後期には、今ほどは多様性に富んでいなかったようだ。第四紀に入って、気候変動が激しくなり、その生息域が大きく脈動した。乾燥期には森林が縮小し、その結果、森林動物相の生息域は分裂して孤立し、ほとんどの種は絶滅に瀕し、実際に多くの種が絶滅したが、一方で新種も多く誕生した。この繰り返しにより、急速な進化を遂げて現在の豊かな動植物相が作られ
たと考えられる。

1) Haffer J. 1969, Speciation in Amazonian Forest Birds, Science, 165, 131-137.

2) Haffer J. 2008, Hypothesis to explain the origin of species in Amazonia, Braz. J. Biol., 68(4, suppl.), 917-947.