窒素固定の起源:Origin of Nitrogen Fixation

ファイル 71-1.jpg

ニトロゲナーゼに関する二つの仮説。左:真正細菌と古細菌の共通祖先に起源する。右:メタン生成細菌に起源する

生物学的に得られる窒素、いわゆる固定窒素は生命にとって必須のものである。知られている窒素固定生物はすべて原核生物であり、窒素固定能力は真正細菌界と古細菌界の両方に広がっている。これらの生物の窒素固定は、すべてニトロゲナーゼという一種類の酵素システムによっている(Raymond et al. 2003)。これは一個のN2分子の固定に16個のATPを使う代謝的にはもっとも高価な生化学反応を触媒する。生物学的に固定されている窒素の量は全地球で2×10^13 g/yrで、雷放電による窒素固定(10^12 -10^13 g/yr)にくらべてかなり多い。

窒素固定能力の維持のためには、エネルギー源としての糖とともに嫌気的な環境が必要である。というのは、一般にニトロゲナーゼは、好気条件で活性を失うからである。窒素固定と言えば、マメ科植物と根粒菌の共生が有名である。マメ科植物は、糖と嫌気的な環境を根粒の形で提供している。

ニトロゲナーゼの起源は古く、ほぼ生命の起源直後にさかのぼれるかもしれない。初期地球において生物が誕生したと考えられるアルカリ熱水孔では、水素の還元能力を使って、硫化鉄や他の遷移金属鉱物の表面で非生物学的にアンモニアが作られていたと考えられている(Dorr et al. 2003; Smirnov et al. 2008)。しかし、バイオマスが増えるにつれて、それでは足らなくなり、初期の細菌の進化においてニトロゲナーゼが獲得されと考えられている。後に述べるように、ニトロゲナーゼの活性中心にMoFe7S9の金属クラスタがある。これは、アルカリ熱水孔の硫化鉄表面に起源しているかもしれない。

光合成細菌は窒素固定能力を持っており(Vanais et al. 1985)、これらの普遍的な分布からその窒素固定に果たしている役割は大きいと考えられている(Kobayashi 1971)。また、有機栄養細菌との共生で、窒素固定能力が高まる(Okuda and Kobayashi 1963)。有機栄養細菌との共生時には、全体としては好気的な環境であっても、光合成細菌が菌体外に粘物質を放出し、局所的に嫌気環境を作り出して窒素固定を行う。

また、酸素発生型光合成をおこなうシアノバクテリアでは、ヘテロシストと呼ばれる特別な細胞を分化させて、その中で嫌気的な環境を特別に作って窒素固定を行っている(Adams and Duggan 1999)。

ニトロゲナーゼのコア部品としてはNifH、NifD、NifK、NifE、そしてNifNたんぱく質が知られている。これらは窒素固定生物に普遍的に存在し、しかもほとんどの場合によく保存されたアミノ酸配列を持っている。そして、全体として顕著に合同な系統史を持っている。ニトロゲナーゼは二種類の系統に分けられ、一つは光合成色素の生合成に必須の遺伝子を含んでおり、もう一つはメタン生成菌にある機能不明の遺伝子を含んでいる。

ニトロゲナーゼは、ATP解離能力を持った酸化還元酵素複合体で、α2β2ヘテロトリマーである(α=NifD、β=NifK)。αサブユニットは活性中心にMoFe7S9の金属クラスタを持っている。この中のMoはFe、もしくはVで代替できるが、効率が下がる。代替型のニトロゲナーゼは、Moが十分得られない場合のみに発現する。

Dorr, M., Kassbohrer, J., Grunert, R., et al. 2003. A possible prebiotic formation of ammonia from dinitrogen on iron sulfide surfaces. Angew Chem Int Ed 42: 1540-3.

Raymond, J. et al. 2004, The Natural History of Nitrogen Fixation, Mol. Biol. Evol. 21, 541-554.

Smirnov A, Hausner D, Laffers R, et al. 2008. Abiotic ammonium formation in the presence of Ni-Fe metals and alloys and its implications for the Hadean nitrogen cycle. Geochem Trans 9: 5, 10.1186/1467-4866-9-5

Vignais, P.M. et al. 1985, HYDROGENASE, NITROGENASE, AND HYDROGEN METABOLISM IN THE PHOTOSYNTHETIC BACTERIA, ADVANCES IN MICROBIAL PHYSIOLOGY, 26, 155-234.

Kobayashi, M. and Haque, M.Z. 1971, CONTRIBUTION TO NITROGEN FIXATION AND SOIL FERTILITY BY PHOTOSYNTHETIC BACTERIA, PLANT AND SOIL, I, 443.

Okuda, A. and KObayashi, M. 1963, Symbiotic relationship between Rhodopseudomonas capsulatus and Azotobacter vinelandii, MIKROBIOLOGIYA, 32, 936-945.

Adams, d.G. and Duggan, P.S. 1999, Heterocyst and akinete
differentiation in cyanobacteria, New Phytol. 144, 3-33.