ヨーロッパの草原バッタの亜種分布と氷河期

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ヨーロッパの草原バッタChorthippus parallelsはヨーロッパからシベリアにかけて分布しているが、過去数十年の間、特にピレネー山脈の雑種領域に関して集中した研究がおこなわれた(Hewitt 1996)。分類学によると、この種は三種の亜種つまり、イベリア半島にC.p. erythropus、ギリシャにC.p. tenuis、さらにC.p. parallelsがその他のイギリスからシベリア、フィンランドからトルコまで分布している。ピレネー山脈にある雑種域は、数kmの幅しかなく、その両側で形態、行動、そして染色体が違っていることが分かっている。詳しいDNA調査の結果、この種はイベリア、イタリア、ギリシャ、トルコ、そして残りの全ヨーロッパに分布する5つのグループで構成されていることが分かった。スペインとフランスの亜種の平均の配列変化は4.5%であり、雑種域を超えた遺伝子侵入はみられなかった。南の4つの領域、つまり、スペイン、イタリア、ギリシャ、トルコは固有のハプロタイプ系列を多く含んでいて、まだ亜種としては記述されていないが、それぞれ独自のゲノムを持っていることを示している。一方、北ヨーロッパのグループとバルカン半島のグループはハプロタイプに多様性ががみらない。

この草原バッタの亜種分布は、氷河期における環境変化の歴史を示していると思われる(図)。まず、ピレネー山脈の雑種域は、それぞれ、スペインの南の避難域からとバルカン半島の避難域からのグループの生息域の膨張で作られた。後者に関しては、バルカン半島を出発域として、全ヨーロッパを超えフランス側から侵入したと考えられる。次に、この同じバルカングループの生息域の拡大が、イギリス、スカンジナビア、そして西ロシアには及んだが、イタリアに関しては、カラブリア(南イタリア)からのグループが生息することになったと思われる。この結果イタリアグループとバルカングループの雑種域がアルプス山脈あたりにあるはずで、現在調査中である。ギリシャとバルカン半島、バルカン半島とトルコの間にも雑種域があるだろう。後者についてはボスポラス海峡がその境界になっているかもしれない。さらに、北よりも南の方にハプロタイプ多様性がみられるはずである。このような現在のゲノム構造は、数回の氷河期とそれに伴う気候の振動による生息域の大変動を反映している。

Hewitt, G.M. 1996, Biological Journal of Linnean Society, 58, 247-276.