光合成系IIの酸素発生複合体の進化: Evolution of Oxygen Evolving Complex in the Photosystem II

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左:Blankenship and Hartman 1998が提案したOECの進化モデル。まず、バクテリオクロロフィルにマンガンカタラーゼが結合して、過酸化水素の酸化を光触媒することになった。これがOECに進化した。右:CaMn2O4の鉱物の構造(a)と光合成系IIの酸素発生[CaMn2Ox]クラスタの構造。両者はよく似ている。

シアノバクテリアが地球大気の酸素を作り出した。その酸素発生複合体(Oxygen Evolving Complex: OEC)は、水の酸素分子への酸化を触媒するもので、4つのマンガンと一つのカルシウムイオンを含んでいる(CaMn4クラスタ)。Blankenship and Hartman(1998)は、原始的なマンガン・カタラーゼが、現在のOECの原型になったのではないかと提案している。カタラーゼは、過酸化水素を酸素分子に酸化する反応を触媒する酵素である。実際、ある条件下ではOECがカタラーゼとして機能することが知られている。また、OECが含むCaMn4クラスターの構造がカタラーゼのマンガン二核クラスタの構造似ている (Penner-Hahn 1992; Dismukes 1996)。

また、過酸化水素H2O2は酸素発生光合成に至る重要な中間物質と考えられている。というのは、非酸素発生型光合成を行う細菌の光合成システムIIの基底状態と励起状態(光子を吸収した後)の酸化還元電位の差が、

H2O→H2+O2

を進めるには足らないが、

H2O2→2H+ + 2e- +O2

を進めることは可能だからである。

Allen 2012は、非酸素発生型光合成中心IIにマンガン補因子と結合するように変更することに成功した。そして、そのこのマンガン活性中心がスーパーオキサイドを酸素分子に変える反応の光駆動酵素として機能することを見出した。その活性は比較的高く、同様の反応を触媒する普通のマンガン・スーパーオキサイド・ジムスターゼに匹敵するものだった。スーパーオキサイドは、紫外線や放射線などの電離放射線によって、過酸化水素やOHラジカルなどとともに作られる。このような活性酸素物質を光化学的に消去する能力を持つことは、酸素発生型光合成を獲得する前の中間状態にある生物の生存に有利だったと考えられる。

Najafpour 2011は、いくつかのカルシウム-マンガン酸化物とカルシウム-マンガン鉱物marokite (CaMn2O4)、pyrolusite (MnO2)、hollandaite、haussmannite(Mn3O4)などのマンガン化合物の光触媒による酸素発生を調べ、これらが効率のよい酸素発生触媒であることを示した。光増感剤としてRu(II)(bpy)3+2を、Ce(IV)硝酸アンモニウムを酸化剤として用いることにより酸素発生はより効率的になった。これは、クロロフィルの吸収波長が変化して、水の酸素への酸化に十分な酸化還元電位差を作れるようになれば、これらの鉱物と同様の構造を持ったCaMn4クラスタが酸素発生の機能を用いることを示している。

Blankenship, R.E. and Hartman, H. 1998, The origin and evolution of oxygenic photosynthesis, Trends in Biochemcal Science, 23, 94-97.

Penner-Hahn 1992、J.E. 1992, in Manganese redox Enzymes (Pecordo V. ed.), pp 29-45.

Dismukes , G.C.1996, Chem. Rev. 96, 2909-2926.

Allen J.P. et al. 2012, Light driven oxygen production from superoxide by Mn-binding bacterial reaction centers, PNAS, 109, 2314-2318.

Najafpour 2011, Amorphous Maganese-Cacium Oxides as a possible Evolutionary Orgin for the CaMn4 Cluster in Photosystem II, Orig. Life Evol. Biosph. 41, 237-247.