tRNAの起源と進化: The origin and evolution of the tRNA

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現在のゲノムの複製過程で働いているtRNA様構造はすべての生物に存在し、高く保存されている。tRNAの機能はたんぱく質の鋳型形成が始まる前、つまりRNAワールドにおいて既に存在していたと考えられる(Maizels and Weiner 1994)。現代のtRNAの上半分つまりTψC配列と受容ステムが最も古い機能要素で、残りの下半分は特異性を向上させるために付加されたと考えられる(図左上)。

QβバクテリオファージはRNAファージでその3末端はCCAで終わるtRNA様構造を持っており、これがレプリカーゼの認識系列になっているとともに、テロメアとしての機能、つまり3末端保護の機能を持っている(図左下)。tRNAはこのようなゲノムタグとして機能から始まったと思われる。一方、RNase PはRNA前駆体から5末端の余計な系列を切ってtRNAとして成熟させる。ゲノムの中の3末端tRNA様構造を切り離す活性もある。現代のRNase PはRNAたんぱく質複合体ではあるが、RNAのみでも活性は維持する。したがって、その起源は、RNAワールドまで遡れる可能性が高い。その時の機能は、3末端のtRNA複合体を切り離すことだったかもしれない。RNAゲノムの複製にはtRNA様構造が必要だが、その触媒活性には、それを切り離す必要があったのだろう。もし、初期のtRNAの機能が3末端保護であるならば、tRNAヌクレオチド転移酵素(CCA末端を持つtRNAをRNA配列に結合する触媒)をすべての細胞が持つことが自然に説明できる。

RNAワールドからDNAワールドへの変遷期においては、現代のレトロウィルスが使っているように、tRNAがゲノムの3末端保護に加えて、RNAからのcDNA合成(逆転写)開始の導火線の役割を果たす様にもなった。さらにDNAワールドにおいては、染色体末端保護のための、テロメア合成のための鋳型としての働きを持つようになったと考えられる(図右)。

アミノアシル化反応は、RNAポリメラーゼが触媒するリン酸転位反応とよく似ており、tRNAのアミノアシル化反応触媒機能は、RNA複製の変種としてI族リボザイムから進化した可能性がある。RNAワールドで働いていたアミノアシル化反応リボザイムの機能が一つ一つたんぱく質に置き換えられて、現在のアミノアシルtRNA合成酵素に進化したと考えられる。

1) Maizels, N. and Weiner, A.M. 1994, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Phylogeny from function: Evidence from the molecular fossil record that tRNA originated in replication, not translation, 91, 6729-6734.