リボザイムによる自己触媒ネットワーク:Self-splicing netwaork by ribozyme

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地球における生命の発生には、生物学的な情報を維持し進化させることが可能な、自己複製化学反応系の成立が必要である。自己複製RNAが一つしかないRNAワールドでは、自分自身の情報を維持するためと寄生的な分子に対して十分に高い競争力を保つために、変異率を十分に下げることが重要であるが、それが非常にむずかしいことが分かってきた。理論的な解析ではお互いに相互作用する複数の分子のネットワークの方が、生命らしいふるまいをする化学反応系を発展させやすいことが分かっている。

Vaidya et al. (2012)は、自己複製リボザイムに自発集合するRNAの破片の集合体が、自発的に協働的触媒サイクルを発達させることを示した。約200残基からできているAzoacus I族イントロンリボザイムは複数に分割しても、そのRNA断片は、自発的に再集合し、自己触媒的な再結合反応を触媒する。リボザイムの5’末端に三残基からなる認識部位を置くことにより自己集合が起きる。このような性質を使い、認識部位をうまく選ぶことにより、ある反応の生成物が次の反応の触媒になるような三要素反応ネットワークを構成した(図)。彼らは、このような反応ネットワークが特に協働的に急速に成長することを見出した。協働ネットワークは利己的な自己触媒反応に打ち勝って、より速く成長する。つまり、RNA分子の集合体は協働を通じてより複雑な反応系に進化しえることが分かった。

さらに、上記の系に変異を人工的に導入した系での振る舞いを調べ、協働ネットワークが試験管内環境での自然選択により進化することを見出した。これらの実験は、萌芽的な生命の分子進化段階における協働的振る舞いの有利性を示している。RNAワールドの実態はこのようなものだったかもしれない。

1) Vaidya, N. et al. 2012, Spontaneous network formation among cooperative RNA replicators, Nature, , 491, 72-76.