アエロゾルが低層雲に与える影響
図8 2002年6月7月8月におけるアエロゾルと雲の空間分布。上)アエロゾルの柱密度の空間分布。光学的厚さが輝度で、色がアエロゾルの種類を表している:赤:サブミクロン粒子と煙粒子で主に中央アフリカ煙がヨーロッパと北アメリカからの汚染アエロゾルである。緑:アフリカからの塵と海塩粒子。下)低層雲(赤)と対流雲(緑)とその混合(青)。黒い領域は大陸を現わしている。
汚染された環境で発達する雲は、雲粒の粒が小さく数が多い傾向がある。この性質は、降水を押さえ雲の寿命を延ばすかもしれない。一方で、アエロゾルによる太陽光の吸収は、水蒸気の蒸散をすすめて雲の被覆率を下げるかもしれない。これらの効果をすべて合わせた雲への影響がよくわからず、地球の平均気温をを決める放射強制力を与える上でのもっとも大きな不確定性だとされてきた。そこで、Kaufmann et al (2005)は、MODIS(Moderate Resolution Imaging Spectrimeter)衛星の1km分解能の20002年の6月から8月のデータを使った大統計解析によって、海洋上の低層雲に対するアエロゾルの影響を調べた。図8は、エロゾルの柱密度の空間分布を表している。光学的厚さが輝度で、色がアエロゾルの種類を表している。赤色は、サブミクロン粒子と煙粒子で主に中央アフリカ起源の煙とヨーロッパと北アメリカ起源の人工アエロゾルである。緑色は、アフリカからの塵と海塩粒子を表している。下図は、低層雲(赤)と対流雲(緑)とその混合(青)の分布を表している。黒い領域は大陸である。
彼らは、大西洋を4つの領域、つまり、海洋アエロゾルのみの南緯30度から20度の清浄領域、煙が卓越する南緯20度から北緯5度の煙領域、鉱物アエロゾルが卓越する北緯5度から25度のダスト領域、そして汚染アエロゾルが卓越する北緯30度から60度の汚染領域に分けた。4種類のアエロゾルはどれも雲粒子のサイズを小さくしていた。また、清浄領域に比べ煙、ダスト、汚染領域は雲の被覆率20%から40%を高いことが分かった。低層雲に対するアエロゾルによる大気の頂上における放射効果は、大西洋全体で平均すると-11±3 W m^-2と見積もられた。このうち3分の1はアエロゾルの直接効効果で、残りの3分の2は、間接効果である。
この値を全海洋に適用できると仮定する。海洋の地球全表面に対する割合を70%とすると、アエロゾルの放射強制力は全球平均で-7.7 W m^-2となる。ちなみに、IPCC2013の報告書では、対応する値は-0.9 W m^-2としてあり、一桁近く低い値を採用している。
一方、Kaufman et al. 2005は、雲の日夜サイクルの影響を受けやすいMODISのデータを用いており、これを考慮すると、アエロゾル雲効果はさらに大きい可能性がある。
放射強制力から地球平均気温変化の変換係数は0.7-2.2 Wm^-2/度とされているようだ。中を取って1Wm^-2/度としよう。アエロゾルが全海洋で平均して有意に(2-10倍ぐらい)増加したときは、5度―10度の平均気温変化が期待できる。これは、氷期・間氷期サイクルにおける変動を説明できる強さである。一方、アエロゾルの数密度が10%程度変動する場合は、放射強制力の変化は、0.8 W m^-2程度で、対応する地球平均気温の変化は1度程度であろう。小氷期の寒冷化や最近の温暖化の温度変化は、銀河宇宙線強度が太陽風の強さの変動により数十パーセント変動し、海洋における硫酸エロゾルの数密度が10%程度変動したことで説明できる可能性がある。
1) Kauffman et al. 2005, The effect of smoke, dust, and pollution aerosol on shallow cloud development over the Atlantic Ocean, PNAS, 102, 11207-11212.