原初地球における前生物的燐酸付加反応:Prebiotic phosphorylation in the primitive earth

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現在の海における溶存無機燐酸の濃度は、10^-5-10^-6モルの低いレベルにある。それは、アパタイトグループの鉱物、特にハイドロキシルアパタイト[Ca5(OH)(PO4)3)が不溶性であることに起因していると信じられている。ハイドロキシルアパタイトは、非反応性で前生物条件での有機リン酸の合成の燐酸には使いにくい。これが、前生物合成の主要な困難の一つと考えられてきた。

Miller and Parris(1964)は、二燐酸がシアン酸イオンの働きでアパタイトの表面に作られることを示した。二燐酸はアパタイトそのものより、燐酸付加反応に使われやすいと考えられる。Lohrmann and Orgel(1973)は、尿素と塩化アンモニアの存在下、85-100℃でハイドロキシルアパタイトが、リン酸化ヌクレオチドをゆっくりとではあるが形成されることを確認した。

しかし、原初地球の生命誕生場、特に内陸湖においては、ハイドロキシルアパタイトの他の燐酸鉱物が存在した可能性がある。実際Ca2+イオン濃度がMg2+イオン濃度より5倍以上高いときのみ、ハイドロキシルアパタイトが析出することが知られている。そうでなければ、より可溶性のアモルファス燐酸カルシウムが析出する(Martens and Harris 1970)。

Handschuh and Orgel (1973)によれば、ストルバイト(MgNH4PO4・6H2O)は、Mg2+、NH4+、(PO4)3-溶液から、急速に析出するので、原初の蒸発湖(もしくは潮汐プール)においては、主要な析出鉱物だった可能性がある。さらに、ストルバイトを尿素と一緒に65℃に加熱するとマグネシウム二燐酸に変わる。また、尿素とヌクレオチドの存在下でストルバイトを加熱するとウリジン5’二燐酸や燐酸二ウリジンが形成される。

これらのことを考え合わせると、原初の地球で、アンモニア濃度が10^-2 Mより高い場合には、蒸発湖もしくは潮汐プールにおいては、ストルバイトとヌクレオシド、ヌクレオチドの混合物の固体フィルムが形成されると考えられる。これが、強い日射によって加熱され、温度が65℃から90℃まで上昇すれば、燐酸付加反応が進行すると考えられる。

Miller, S. L. and Parris, M., 1964, Pyrophosphate under primitive earth conditions, Nature 204, 1248.

Martens, C.S. and Harris R.C., 1970, Inhibition of apatite precipitation in marine enviroment by magnesium ions Geochem. Cosmochim. Acta, 34, 621.

Lohrmann, R. and Orgel, L.E., 1973, Urea-Inorganic Phosphate Mixtures as Prebiotic Phosphorylating Agents, Science 171, 490.

Handschuh, G.J. and Orgel, L.E. 1973, Struvite and prebiotic
Phosphorylation, Science 179, 483-484.