1st Workshop on Laser solutions for Orbital Space Debris報告

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2015年4月27日と28日の二日間で1st Workshop on Laser solutions for Orbital Space DebrisがパリのAstroParticule and Cosmology研究所で開催された。組織委員は、Christophe Bonnal, Prof. (Senior expert- Technicla Directorate – CNES – Launcher Directorate), Philippe Gorodetzky, Dr. (AstroParticule and Cosmology),
Gerard Mourou, Prof. (Director of IZEST – Ecole Polytechnique), Claude Phipps, Dr.
(Managing Partner – Photonics Associates, LLC), Mark Quinn, Dr (IZEST – Ecole Polytechnique)である。日本からは戎崎俊一(理研)、佐宗章弘(名古屋大学)、北澤幸人(石川島播磨、JAXA)が参加した。ヨーロッパを中心に約50人の研究者が参加した。
まず、会場であるAstroParticule and Cosmology (APC)研究所の所長であるS. Katsanevas博士から、挨拶と研究所のとの概要説明があった。APCはAstroParticle Physicsと宇宙論の研究を行う天体物理の研究所であるまた、パリ工科大学のIZESTの概要説明があった。IZESTは、超高輝度レーザーを使った次世代加速器の技術的・理論的基盤を企画する国際組織である。さらに、フランス宇宙機関のBonnal博士から宇宙デブリの憂うべき状況とその解決にレーザー技術が果たすかもしれない役割についての期待を述べた。
まず、Laser Tracking sessionでは、地上の観測所からのライダー観測によってデブリの検出感度と軌道決定精度の向上に関する4つの講演があった。現在、衛星は年に数回のデブリ回避運動を強いられており、軌道決定精度の向上によりその数が減ることが期待されている。また、衝突の可能性が高い場合は、軌道を少し変更して衝突を避けるnudgingが、現実的なデブリ増殖をとめる重要な選択肢であるとの指摘があった。
午後のLaser interactions sessionでは名古屋大学の佐宗が、レーザーによるプラズマアブレーションによる反力の発生過程の実験的研究を紹介した。また、真空チェンバー内で宇宙機のプラモデルの回転がタイミングを合わせたレーザーパルスにより効率的に止めた実験のビデオとその結果の紹介を行った。この実験は会議参加者の多くから強い興味が示された。また、Rutherford Appleton研究所のNeely博士から、レーザーパルスを短くして最大輝度を高くしても、100ps以下では、プラズマとの相互作用によりカップリング係数(反力とレーザーエネルギーの比)が向上しないことの実験的研究の説明があった。
 さらに、Ground Based Remediation sessionでは、地上のライダー観測施設のレーザー出力を強化して、地上から射出した高輝度ビームによりデブリの起動速度を変えてNudgingもしくは再突入に導く可能性についての研究報告があった。大気を通してレーザービームを照射するので、大気による屈折と擾乱を如何に抑えるもしくは補正するかが重要である。その観点からレーザーガイドスターを使った補償光学システムの報告もあった。
二日目の28日の午前のLaser technology sessionでは、ファイバーレーザーを多数並列に使ってファイバーの本数に比例して出力の向上するCAN (Coherent Amplification Network)技術の紹介があった。すでに、フランスのThalesでは、百本レベルのビーム並列発振が実現されたとの報告があった。これを宇宙機に搭載できる可能性がある。また、レーザーの励起光に太陽光を直接使う太陽光励起レーザーの開発が紹介された、太陽光からの変換効率として5%程度、出力として数十Wのレーザーシステムが実現しているとの報告があった。
 午後のSpace Based Remediation sessionでは、戎崎が最近発表した超広視野望遠鏡EUSOとCANレーザーを組み合わせたデブリ除去ミッションに関して報告した。EUSOは超高エネルギー宇宙線観測用に15年かけて理研、APCなどの研究者が協力して開発してきた。この望遠鏡は100km距離にあるデブリの太陽光反射を検出することが可能である。それで位置と運動方向を決め、レーザー探索ビームで位置と距離を正確にきめて、高輝度レーザーによる軌道変更を行うというアイデアである。多くの技術的困難が存在しているが、国際宇宙ステーションをそのテストベッドとして使用し、技術実証を繰り返し行うことで、その多くが克服できると主張された。多くの参加者が強い興味を示し、今後真剣に検討すべき新しい可能性であることが認識された。また、APCのGorodetzky博士からmini-EUSO (口径25cm)の小型EUSO宇宙ステーションに2017/18搭載予定なので、それにタイミングを合わせてレーザーを用意できれば、最初の技術実証実験(検出とレーザー照射)が可能であるとの報告があった。
 宇宙物理、宇宙工学、レーザー工学など様々な分野の研究者が集まってそれぞれのアイデアを交換できた大変有意義な研究会で会った。最後に次回会合として、佐宗が、2016年ごろに名古屋大学で開催する可能性があることを提案し、今後具体的な検討がなされることとなった。
以上
2015年4月28日
戎崎俊一(理研)、佐宗章弘(名古屋大)