国際プロジェクトで活躍する日本人

最近、科学プロジェクトの多くが大型化して一国では賄うのが不可能になってきた。その結果、複数の国が協力し合って計画を推進する国際プロジェクトが増えている。その多くが、費用の50%近くを出す「主幹国」が存在しない「真の国際プロジェクト」となっている。

こうしたプロジェクトの運営は複雑だ。半年に1回程度回り持ちで、コラボレーション会議を行い、そこで主要な成果を報告し、重要な案件を協議して決定するようにしている。コラボレーションの代表者は、主要な指導者で組織する運営会議でお互い話し合って選び、彼(または彼女)を補佐するさまざまな役割を分担する。当然、何かにつけて意見が分かれる。いくつかある技術的オプションの中でどれを、いつ、どのような手順で選択し、決定するかなど議論をすればきりがない。

指導者同士で激論が続くこともある。その議論の中で、今までわからなかった問題点が次第に明確になり、その解決策を見つけて実効性を確認する過程が進行し、議論が収束してゆく。一方、両者が意地になって感情的な水掛け論が続き、議論がかみ合わなくなって、コラボレーションの運営に支障をきたす場合も少なくない。

多くの日本人科学者が、このような国際プロジェクトに参加している。私が知っているのは天文と宇宙物理関係のほんの一握りの例であるが、地味ながら重要な部分を任されてコラボレーション全体から頼りにされている例が多いように見受けられる。少々、不思議に思い、自分の経験にも照らして考えた結果、多くの日本人科学者が、国際プロジェクトの成功になくてはならない資質を備えているのかもしれないと考えるようになった。それは、自分の名誉や利益よりも、プロジェクトへの忠誠心が高いことである。

国際プロジェクトでリーダーシップを発揮するには、単に「よいアイデア」を持っているだけでは不十分だ。議論が暗礁に乗り上げたとき、対立する主張の良いところを取って、みんなが賛成できなくもない「落としどころ」を探る必要がある。それには、対立する両派の間で、右往左往するだけではうまくいかない。現状の問題点を正確に把握して、第3案を構築し、その確立に向けて静かに行動し、自分の技術と経験でそれを実証して見せる能力が必要だ。また、無視されがちな小国の不満も聞いて代弁する必要もある。本質的に重要な事項に関しては、万難を排して死守することも重要だ。

日本人は小さな島国で資源を分け合って暮らしてきた。日本の中で「勝者がすべてを取る」という論理では、社会がうまく回らないことを肌で知っている。だから、争いを好まず「喧嘩(けんか)両成敗」を心がけ、「落としどころ」を探し、平和裏に折り合いをつけるよう努力を惜しまない。

科学の世界だけではない。新興国の台頭など国際関係が複雑化する中で、圧倒的な軍事力を誇る超大国でも、それだけではリーダーシップを発揮できず、問題を解決できなくなっている。いわば「世界が日本化している」ともいえ、日本人が培ってきた特質が必要とされるのは当然のことかも知れない。

侍は「奉仕する者」という意味であるという。そんな「サムライ精神」を持った日本人は、今後ますます世界で活躍するに違いない。

フジサンケイビジネスアイ 高論卓説 2015年5月19日
http://www.sankeibiz.jp/macro/news/150519/mca1505190500002-n1.htm
許可を得て転載