硬骨魚類の海水適応ホルモンを探る:Exploring novel hormones essential for seawater adaptation in teleost fish
海生の魚類は高い浸透圧を持つ海水の中で脱水してしまうが、腸で吸収された過剰なイオン、特にNa+とCl-を排泄する能力を持っていれば、周りの海水を飲んでバランスを保つことができる。このような耐塩性機構には、ホルモンが重要な役割を果たしている。比較ゲノム学の研究から、硬骨魚類で、Na+を放出し、血管降圧性の性質を持つホルモンが多様に発達していることが分かってきた(Takei et al. 2008)。これらのホルモンは、硬骨魚類の海水での生存と水中における低い動脈圧の維持に重要である。
海生のメクラウナギの血漿イオン濃度は、ほとんど海水と同じである。この特徴は海生の無脊椎動物に共通である。過剰なNa+とCl-イオン濃度は、細胞を過分極させ、神経と筋肉の興奮性を損なってしまう。興奮性を保つため、細胞質のイオン濃度をそれに対応して上げなければならない。しかし、それは細胞質内の酵素の働きを損なう可能性がある。軟骨魚類(全頭亜綱と板鰓亜綱そして、総鰭類)では、血漿中に尿素を蓄えて浸透圧を海水と同じレベルに上げる一方で、イオン濃度は海水のそれよりも低く維持されている。高い尿素濃度による代謝酵素に対する好ましくない影響は、トリメチルアミン酸化物により打ち消されている。海において現在もっとも繁栄している硬骨魚類の条鰭類は、イオン濃度と浸透圧を環境の塩度に関係なく、海水の三分の一のレベルに維持している。イオンと浸透圧に適応する円口類、イオン濃度を調節し浸透圧に適応する軟骨魚類、そして両方とも調節する条鰭類への進化過程を追跡することは魚類の海水への適応過程を理解するうえで重要である。
ナトリウム排泄性ペプチド(NP)族はその典型で、7つの種類(ANP、BNP、VNP、CNP1,2,3,4)が見つかっていて、海生魚類において低ナトリウム排出効果と血管降圧効果を示す。これら7つのホルモンは、軟質亜綱(チョウザメとポリプテルス)の段階で既に存在していたので、これらのNPは第三回全ゲノム重複の以前に、硬骨魚類の系統に既に存在していたことになる。軟骨魚類(全頭亜綱と板鰓亜綱)はCNP3のみを持ち、円口類(メクラウナギとヤツメウナギ)では、CNP4しか同定されていない。このことから、CNP4がNP族の祖先分子であると考えられる。CNP3は第二回全ゲノム重複によって無顎類と顎上亜綱との分岐の時に作られ、軟骨類においては、その後の長い進化でCNP4が失われたと考えられる。心臓ホルモンであるANP、BNP、そしてVNPは、同じ染色体におけるCNP3の縦列重複で作られた。CNP1とCNP2は、CNP3遺伝子からの違う染色体へのブロック重複によって作られた、これら3つの遺伝子はそれぞれ3つの違うエノラーゼ遺伝子と連関している。これら7つのNP遺伝子は、総鰭類(後に四足動物が進化する)と条鰭類が分岐する4億年に存在していたことは明らかである。四足動物においては、哺乳類においては3つ(ANP、BNP、CNP4)、鳥類においては4つ(BNP、VNP、CNP3、CNP4)そして、両生類では4つ(ANP、BNP、CNP3、VNP4)しか保持していない。硬骨類の系統では、いくつかのNPが失われたのに対し、条鰭類がすべて7種類のNPを保持していることは、興味深い。
もう一つの例は、グアニリン族でグアニリン、ウログアニリン、レノグアニリンの3つのパラログがある。これらは、Cl-の管空への分泌を亢進し吸収型のNa-K-2Cl-の共輸送体を活性化する。
最新の例は、アドレノモジュリン(AM)族である。AM族はAM1,2,3,4,5の5種類からなっていて、AM2とAM5は、硬骨魚類において最も有効な血管拡張と浸透圧調節能力を示している。AM1/AM4とAM2/AM3は硬骨魚類の系統における三回目の全ゲノム重複で、重複されたが、AM5に対応する重複遺伝子は失われた。
これらの多様なホルモン族が、硬骨魚類の海水適応に不可欠な働きをしていることが分かってきた。
Takei et al. 2008, Exploring novel hormons essential for sea water adaptation in teleost fish, General and Comparative Endocrinology, 157, 3-13.