新規遺伝子の出現率:Emergence rate of founder genes
生物はもともとある遺伝子を元にして、その重複と再構成で新しい遺伝子を作ってきたと考えられてきた。ところが最近になって、元になっている遺伝子が見つからない「孤児」遺伝子がたくさん存在することが分かってきた。それらは、重複や再構成から始まったが原型がわからないほど変化してしまった遺伝子か、ゲノムの非翻訳領域からコピーされて、何らかの理由で調節機構を獲得し新たに遺伝子になったものらしい。後者はこれまであまり多くないと考えられてきたが、最近になってこの遺伝子獲得機構が生物進化に重要な役割を果たしていることが分かってきた。
Tauz and Domazet-Loso 2011は、マウス、ショウジョウバエ、シロイヌナズナの進化史における新規遺伝子の出現率の変化を調べてみた。新規遺伝子の出現率は、一様ではなく、いくつかのはっきりとしたピークがみられる。マウスにかんしては、後生動物(Metazoa)が生れた8-7億年頃と、真獣類(Eutheria)と有袋類が分かれた直後(約1億年前)に二つの顕著なピークがある。前者のピークはショウジョウバエにもみられる。シロイヌナズナに関しては、バラ類(Rosids)などの被子植物が適応放散した1億年前頃に植物固有のピークがある。これは、マウスの二つ目のピークとおおむね一致している
一つ目のピークの時期、つまり、約8-7億年前は、超大陸ロディニアが後に太平洋を作るスーパープリュームの活動で分裂しかけており、繰り返し全球凍結事件が起きていた。この時期に後生動物が生れ、エディアカラ動物群から、カンブリア生物大爆発への道が開かれた
一方、二つ目のピークの時期、つまり1億年前は、超大陸ゴンドワナが分裂を開始していた。この開裂が後に大西洋となる。この時期に哺乳類と被子植物が誕生している。
1)Tauz, D and Domazet-Loso, T. 2011, Nature Review, Genetics, 12, 692-702.