The Story of the Human Body: Evolution, Health and Disease

The Story of the Human Body: Evolution, Health and Disease
Daniel Lieberman
2014/10/2
進化人類学者の著者は、現生人類に蔓延する生活習慣病の原因が、狩猟採集生活に適応してきた人類の体と現代的な生活との不整合にあると主張する。本書はまず人類の進化の道筋をたどる。
人類は約9百万年前に、ゴリラ、チンパンジーとの共通祖先から別れた。三者の共通祖先は、アフリカの熱帯雨林の樹上生活者で、そこに一年中実る果物を食べて生きていた。東アフリカでは大陸が分裂するリフト活動が始まった結果、高原化して乾燥し、密林が疎林・草原に変わった。人類はそれに適応して直立二足歩行を始め、独自の進化を始める。果実が得られない時期には、植物の葉や茎、地下茎や動物を食べるようになった。二足歩行で開放された上肢を使って簡単な石器を作り、堅い食物(地下茎や動物の肉)を切断・破砕した。完全な直立歩行(走行)はエネルギー効率が高く、食物の採集のための長距離の移動が可能となった。
動物の肉は、死肉漁りの他に、持久狩猟によって得た。この狩猟法は現在でも熱帯の採集・狩猟民族の間で広く行われている。狩猟者は炎天下に大量の水を飲んで準備をしておく。獲物を見つけると、隠れ家から追い出し後を追跡することを延々と数時間繰り返す。獲物は炎天下で常に走らされる続けた結果、熱中症に陥って動けなったところを止めを刺される。この方法により、敏捷性や力に劣り、まだ武器を発明していない初期人類が、高エネルギーの肉を得ていた。炎天下に数時間走り回る持久力を得るために、毛が退化し、汗腺を発達させて水の蒸発による冷却を可能とした。いったんは視界から消えてしまった獲物を見つけるための追跡には、二足歩行による視点の高さと大きな脳による推論能力が貢献した。
この間、脳は大幅に肥大した。現生人類の脳は体の基礎代謝量の20%を消費する高価な装置で、唯一のエネルギー源であるブドウ糖の供給が一瞬でも止まると回復不可能な損傷を受ける。持久狩猟中や不幸にして食物が得られない時期でも脳を維持するために、食物があるときに食べれるだけ食べて、脂肪にしてエネルギーを蓄えるように進化した。特に、育児中の雌は、自分と胎児もしくは哺乳中の乳児に与えるエネルギーを確保するために、脂肪の蓄積能力が高くなった。それでも育児中の雌が単独でこれらのエネルギーを賄うことが困難なので、連れ合いと両親が不足分を彼女に供給するようになり、食物を分け合って助け合う家族の原型ができあがった。
現生人類は約20万年前に誕生した。石器、火の利用と言語による高度な相互協力の実現などのイノベーションを背景に、狩猟採集者として様々な環境に進出を始める。彼らは、1日に女子で平均9km、男子で15kmも移動し、広範囲から食料を得ていた。人体は、このような数百万年におよぶ狩猟採集生活で問題が少ないように進化適応してきた。その後起こった農業革命と産業革命により人類の生活様式が激変した結果、人体とそれを取り巻く環境の間に大きな不整合が生じるようになった。
麦、米などの穀物の栽培は約1万年前頃から世界の各地で始まった。また同時期に、羊、山羊、牛、豚、牛、馬、犬の家畜化が進んだ。1カ所に定住し集落に集まって住む農民が生まれる。彼らの食物は、糖質主体のものとなり、ビタミンの不足による病気、すなわち壊血病(ビタミンCの不足)、ペラグラ(ビタミンB3の不足)、脚気(ビタミンB1の不足)に悩まされるようになった。また、穀物からの糖質中心の食事により、虫歯が発生するようになった。さらに、人口密度の増加により衛生環境が悪化し、家畜起源の伝染病が蔓延するようになった。その例は、腺ペスト、懶、腸チフス、ラサ熱、マラリア、麻疹、結核などである。これらは、多様な食物を食べ、離れて暮らす狩猟採集民にはあまり見られない病気である。
約250年前に始まった産業革命で、人口の都市への集中がさらに進み、労働環境と公衆衛生環境の極端な悪化から、感染症と栄養の偏りによる病気が激増した。しかし、それぞれの原因が特定され、労働・公衆衛生環境がと整えられるにつれて克服されていった。ただし、虫歯については、現代的な歯科治療により対症療法は進んだが、克服には至っていない。
しかし、それらに代わって二型糖尿病、心臓病などの慢性的な肥満による病気、免疫不全に関係した病気が増加している。これらの真の原因は、狩猟採集生活に適応した人体と現代人の生活環境の不整合にあると著者は主張する。
著者によれば、両者の不整合による健康問題は以下のようなものがある。まず、二型糖尿病と動脈硬化は糖質(特に果糖を半分含む砂糖が大量に入った)主体の高度に加工された食物・飲料の大量摂取による慢性的な肥満に原因がある。繊維質がほとんどないこれらの食物・飲料を摂取すると、急速に血中濃度が上がる。それは、インシュリンの大量放出と脂質の蓄積につながり、それらの相乗効果でインシュリン不感症と高血圧、動脈硬化を進行させてしまう(いわゆるメタボリックシンドローム)。その対処法は、それぞれの対症療法のみではなくて、真の原因である人体と生活環境の不整合に着目して、砂糖が大量に入った食物・飲料を避ける、暴飲・暴食を避け、適度な運動でエネルギーバランスを中立に保つなどであるべきだと著者は主張する。また、骨粗鬆症は運動不足により筋肉骨に十分な負荷がかかっていないこと、親知らずの異常伸張は柔らかいものばかりを食べることによる顎の骨の成長不良、アレルギー症は公衆衛生の行き過ぎにより人体の免疫システムに十分な負荷がかかっていないことが原因であるとしている。
その他、ジョガーに見られる足の故障は厚い靴底による過保護、近視は屋内で書物やコンピュータスクリーンを長時間凝視しすぎ、腰痛は柔らかい椅子での長時間作業などが原因であり、人体と環境の不整合による問題としている。これらについても、対症療法に頼るだけでなく、真の原因に着目した予防的な対策を推奨している。つまりそれぞれ、できるだけ薄い靴底を使うか裸足で歩く、アウトドア活動の奨励する(特に成長期)、適切な間隔でのストレッチと適度な運動を行う、などである。
豊富な人類学の知識を駆使した著者の議論は大変説得力がある。特に、著者の持論である初期人類の持久狩猟戦略とそれに有利なように進化した人体との特徴の議論は、大変興味深い。武漢コロナウィルス禍による巣ごもり状態の自分を省みるに、耳の痛い話ばかりである。人類の進化と生活習慣病に興味ある人は是非読むことをお勧めする。著者が言うように、いろいろ試しながら反応を見つつ、自分の体をよく耕していっそうの長寿を手に入れようではないか。