宇宙における航跡場加速
宇宙から10^20eVを超えるエネルギーを持った超高エネルギー荷電粒子(宇宙線)がやってきている。これは、人工加速器をはるかに超える天然加速器が宇宙には実在していることを意味している。その実体は長年謎のままだったが、最近それが解明されつつある。
従来、宇宙線加速は1954年にE. Fermiが提唱したフェルミ加速で超新星残骸において行われると考えられてきた。しかし、フェルミ加速においては、荷電粒子が磁気雲と多数回衝突を行って統計的に加速されるので効率が悪く、10^15eV以上のエネルギーを得るのは、不可能ではないがかなり無理があると言われてきた。
Ebisuzaki and Tajima (2013)は、ブラックホールの周りに形成された降着円盤から垂直に打ち出されるアルフベン波の強烈なパルスが航跡場を励起し、その中で伝搬に荷電粒子の強い加速が起こることを示した。加速を行う航跡場自身も加速される荷電粒子もともに同じ光速で伝搬するので、加速が長時間続く。その結果、効率的に超高エネルギーに到達できる。加速された荷電粒子のうち電子は高エネルギーガンマ線を放射する。また、陽子は周りの静止ガス中の陽子と衝突してニュートリノを生産する。
このように、ブラックホールにガスが降着している天体は、銀河内のマイクロクエーサー(10太陽質量程度の降着ブラックホール天体)、近傍の活動的な銀河核、そして遠方のブレーザー(数種類の高エネルギー銀河核の総称)と様々なものがある。これらははどれも、航跡場加速機構により様々な高エネルギー粒子を生産して宇宙空間にばらまいている。
さらに、大質量星のコア崩壊や中性子星合体などのイベント時には形成されつつあるブラックホール付近から、重力波とともに、強烈なアルフベンパルスが放射され、超高エネルギーの電子、陽子、ガンマ線、ニュートリノが航跡場加速機構で作られることも明らかにされた(Kato et al. 2022)。
Ebisuzaki, Tajima, and Barry (2023)は、宇宙における航跡場加速理論とマルチメッセンジャー天文学(光のみでなく、荷電粒子、ニュートリノ、重力波すべてを使う天文学)による主要高エネルギー天体の観測を総括し、航跡場加速理論が宇宙における高エネルギー現象を説明する有力なモデルであることを示した。共著者の一人であるBarry C. Barishカルフォルニア工科大学教授は、2017年に「LIGO検出器および重力波の観測への決定的な貢献」が認められキップ・ソーン、レイナー・ワイスとともにノーベル物理学賞を受賞している。
- Fermi, E., 1954, Galactic magnetic field and the origin of cosmic radiation, Astrophys. J. 119, 1.
- Ebisuzaki, T. and Tajima, T., 2014, Astrophysical ZeV acceleration in the relativistic jet from an accreting supermassive blackhole, Astroparticle Physics, 56, 9-15.
- Kato, Y., Ebisuzaki, T., Tajima, T. 2022, Wakefield acceleration in a jet from a neutrino-driven accretion flow around a black hole, Astrophys. J., 929, 42.
- Ebisuzaki, T., Tajima, T., and Barish, B.C., 2023, Wakefield acceleration in the universe, International Journal of Modern Physics D., 32, 2330001.