原子力発電所メルトスルー事故後のコンクリートマグマプールの拡大について
福島第一原子力発電所においては、冷却能力の喪失により炉心が破壊され、燃料棒集合体の一部は崩落して格納容器まで落下したと考えられている。さらにその一部もしくは全部が、格納容器を貫通して基盤コンクリートまで落下している可能性が否定できない。落下した燃料棒は、発熱を続け基盤のコンクリートを破壊する。コンクリートは水和エネルギーで固体となっており、約2MJ/kgの熱を受け取ると溶融する。コンクリートと燃料棒が混ざった溶融物をここでコンクリートマグマと呼ぶ。
落下した燃料棒の周りには、コンクリートマグマのプールができる。やがてこのプールはお互いに合体して大きなマグマプールを形成する。Alsmeyer (1989)は、このマグマプールの拡大を1.3GWの電気出力(対応する熱出力はその3倍弱)で燃料棒が100%落下した場合について数値シミュレーションを実行した。福島第一原子力発電所の2-4号機の電気出力は0.784GWなので、このシミュレーションは保守的な見積もりになっていると考えられる(約2倍のマージン)。
その結果を図に与える。マグマプールは約1年後に半径12mに達して水平方向のほぼ拡大を止める。その後ゆっくりと1年に1メートル程度の割合でゆっくり落下する。福島第一原子力発電所の場合、基盤のコンクリートの厚さは14mである。この深さに到達するのは、200日後程度(つまり約7か月後、3月から数えると10月頃)である。燃料棒の一部しか落下しなかった場合はそれに応じて発熱量が減り、マグマプールの半径はその1/3乗に比例して小さくなると思われる。10%のメルトスルーで5.6m、1%のメルトスルーで2.6m程度になることになる。
このように、メルトスルーから半年から1年後に半径10m程度のマグマプールが基盤コンクリート構造の中にできる事態を想定しなければならない。まず、原子炉の上部構造がこれに耐えられるか、特に、震度5-7の地震への耐震性が心配されなければならない。また、早かれ遅かれ数年後には、マグマプールの底が基盤コンクリートを突き抜ける心配がある。そこには砂岩を中心とした透水層が広がっており(地下70mまで)、地下水による汚染が心配される。したがって
1)メルトスルー量の把握
2)地震波・電磁波解析によるマグマプールの存在確認
3)地下20mに達するコンクリートの地下ダムによる地下水流入の遮断
4)原子炉上部構造の建設による雨水の遮断
を急ぐべきである。
1. Alsmeyer, H. 1989, Nuclear Engineering and Design, 117, 45-50.