真核生物の鞭毛装置の起源:Origin of the eukaryote flagellar appratus

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真核細胞の鞭毛(flagella)は、鞭毛それ自身が能動的に屈曲して運動する能力を持っている。300以上のタンパク質が集まって鞭毛装置(Flagellar Apparatus)が構成されている。その中心には、9+2構造と呼ばれる特有の構造を持つ軸糸(axonome)があり、チューブリン繊維の間にモータータンパクのダイニンが結合している。そのすべり運動で鞭毛の屈曲が作り出される。真核生物においては、鞭毛装置は、多くの真核生物において、視覚、聴覚、機械刺激の感覚器としても使われている。

鞭毛の起源については、Margulisの共生説の中でスピロヘータによるとされて以来(Marguils 1993)、外源なのか、自源なのかについて議論が続いていた。

鞭毛装置内で必要な物質は、鞭毛内輸送機構(IFT:Intraflageller transport)で運ばれている。その双方向輸送は、ほとんどの真核生物に保存されたIFT複合体タンパクが担っている。IFT複合体を形成するタンパク質の配列を調べてみると、被覆タンパクI(Coat Protein I:COPI)やクラスリン-被覆小胞体との間に、類似性がある。このことは、真核生物の鞭毛装置が、細菌との共生を通して得られた外源的ものではなく、自源的なものであることを示唆している。つまり、IFTは、以下の過程を経て被覆小胞体輸送システムから進化したと考えられる(Jekely and Arendt 2006)。

1)真核細胞の共通祖先において、鞭毛内輸送システムは、特殊化した細胞膜領域における膜貫通たんぱく質輸送、細胞内取込み作用を担当していた(図1A)。

2)チューブリン繊維が集まって発達し、細胞膜が環境へ突出することを可能にした。膜貫通たんぱく質の輸送はまだ小胞体が担っており、原初的な軸糸のたんぱく質は、最後は拡散によって届いていた(図1B)。

3)現在の双方向の鞭毛内輸送機構ができた。そこでは、先端行き方向はキネシンIIが、逆向き方向はダイニン1b/2が、モーターとして使われている。これらのモーターは被覆小胞体の輸送にかかわっていたモーターから進化した(図1C)。

4)その後の進化の過程で、鞭毛内輸送機構は軸糸との共進化を遂げた(図1D,E)

1) Margulis, L. 1993, Symbiosis in Cell Evolution, W. H. Freeman and Company, san Francisco, California.
2)Jekely, G. and Arendt, D. 2006, Evolution of intraflagellar transport from coated vesicles and autogenous origin of the eukaryotic cilium, BioEssays 28, 191-198.