エネルギー代謝の進化:好気呼吸最初仮説: Orgin and Evolution of Energy metabolism: Oxygen Respiration first Hypothesis
左:真正細菌・古細菌の共通祖先が持っていたと考えられる代謝。
右:酸素呼吸は、酸素発生型光合成に先行して現れた。
Castresana and Sataste (1995)は、以下の酸化還元たんぱく質が、真正細菌と古細菌の両方にみられるので、真正細菌・古細菌の共通祖先は、すでにこれらを持っていたと考えている。
1)チトクローム酸化酵素サブユニットIとII
2)チトクロームb
3)Rieske鉄硫黄タンパク
4)青色銅タンパク
5)2Fe-2Sと4Fe-4Sフェロドキシン
6)コハク酸脱水素酵素の鉄硫黄サブユニット
このように、好気性代謝は真正細菌と古細菌の両方にみられる。ほとんどの真正細菌は、嫌気性であるが、多くは条件好気的か絶対好気的である。大部分の極限環境に住む古細菌は強く嫌気的であるが、好気的な古細菌の種もいくつか存在する。したがって、好気的代謝は単一起源で、真正細菌・古細菌の共通祖先はすでにこれを持っていたと結論できる。現在種が持っている代謝系の多様性は、それぞれのニッチへの適応の過程で、祖先から伝わった代謝システムの一部が、失われた結果だと考えられる。
一方、NO還元酵素も、真正細菌・古細菌の共通祖先が持っていたと考えられる。脱硝化反応に必須の酵素であり、すべてのチトクローム酸化酵素と類似性を持っている。FixN型チトクローム酸化酵素が、NO還元酵素から進化した可能性がある。NO酸化酵素が触媒する反応は
2NO+ 2H+ +2e- →n2O +H2O
であり、チトクローム酸化酵素が触媒する
O2 + 4H+ 4e- →2H2O
とよく似ている。NOは初期地球大気で簡単に作られるので、NOを還元するFe-Fe二核触媒中心が、酸素を還元するFe-Cu活性中心の祖先形であるかもしれない。つまりこの場合、好気代謝は脱硝化反応から進化したことになる。細菌・古細菌共通祖先の代謝系は、極めて適応的で、二つもしくは三つの化学物質を酸化体として使うことができたのかもしれない。その能力は、その後のそれぞれのニッチへの適応の過程で一部が失われたのかもしれない。
しかし、光合成中心は真正細菌にしか見られない。しかも、光合成系Iと光合成系IIを両方使う酸素発生型光合成はシアノバクテリアにしか存在しない。古細菌には光合成細菌はいない。したがって、真正細菌・古細菌の共通祖先が光合成中心を持っていたとは考えられない。以上を総合すると、好気的代謝は、酸素発生型光合成より先に獲得されたと考えられる。
Castresana, J. and Saraste, M. 1995, Evolution of Energetic Metabolism – the Respiration-Early Hypothesis, Trends in Biochemical Sciences, 20, 443-448.