G-8 International Conference on Open Data for Agriculture報告: Report of G8International Conference on Open Data for Agriculture
戎崎は、2013年4月29日と30日の二日間にわたって行われたG8 International Conference on Open Data for Aglicultureに出席した。これは、公的資金を使って行われた農業関連のデータの公開が全球的な食糧安全保障の増加に重要であるとの認識にたって開催された会である。データの公開は米国オバマ政権の公約の一つ(http://www.whitehouse.gov/open)でもあり、ホワイトハウスのスタッフが力を入れている。実際、公的な資金を取り扱う米国のFunding Agency(NSF、DOE、NIH、DOAなど)には、データの一層の公開をどのように推進するかについて、方策をまとめ年内に発表するように強く指示されており、農業関連だけでなく宇宙物理関係でもその対応のための委員会が組織されていると聞く(OECD、Global Sciece Forumでの議論)。
会議の参加者はおおむね三種類の人間がいたように思う。
1)オバマの政策推進のために得点を早期に挙げたい米国の官僚群
2)ゲーツ基金や世界銀行のお金で、データベース・サーバーやソフトの開発資金とパソコンやデータ端末をアフリカの農民に売りつけたいIT産業の人々
3)米国の動きを無視できないものの、上記の動きをやや冷ややかに見つめる他国の官僚群
それぞれ立場があり、ご苦労なことである。
ただし、世界の食糧事情は2050年の世界人口ピーク(現在の少なくとも現在の約2倍)に向かって逼迫の度合いを増している。そのもっとも弱い部分がアフリカ諸国であり、そこに手当てをする必要があることは論をまたない。日本が何をするべきかを考えてみた。
今回の会議で二つ重要な報告があった。インドのハイデラバードICRISAT (International Crops Institute for the Semi-Arid Tropics)のRajeev Varshney博士のグループの報告で、ひよこ豆の耐乾性品種を作出したというもの、もうひとつは、Chiedozie Egseiらのグループの耐ウィルス性を持ったキャッサバ品種の作出である(ゲーツ財団)。どちらもゲノム情報を用いて効率的に短期間で成し遂げられたところに特徴がある。米・麦・トウモロコシなどの主要な穀物ではないが、どちらも熱帯・亜熱帯においては重要な作物である。
このようなゲノム育種は近年盛んになっている。日本においても、コメについてhttp://www.academy.nougaku.jp/annual%20report/kaiho10/13_sympo3.pdfなどに報告がある。多くの国の多様な品種のゲノム情報がオープンになれば、それらを用いて様々な性質をもった品種が短時間でできるようになるはずで、これらのSNPデータのオープン化は米国の利益だけでなく、日本も含んだ先進諸国、アジア、アフリカのまだ貧しい国々の食糧事情に貢献するであろう。
2008年に始まったサイクル24の太陽活動はことのほか不活発であり、次のサイクル25と26は(2020年ー2045年)は黒点がほとんど現れない極小期になるのではないかと専門家は心配している。過去の例をみると太陽活動が不活発な時期は、年ごとの温度・降雨の変動幅が大きくなっている。つまり、今後20-30年間は異常気象の頻発と連続が心配される。全球的な低温や干ばつが数年続けば、日本を含めた食糧を輸入に頼る各国が、深刻な食糧不足に陥ることは間違いない。そういう意味で、食糧増産の問題をアフリカだけの問題としてとらえるのではなく、日本自身が直接関係する問題としてとらえるべきである。
1)既存のゲノムSNPデータの収集、データベース化と公開ゲノムデータの公開に関しては、日本でも例がある。マウスcDNAライブラリのデータはその意味づけデータとともに理研から公開されている
(http://fantom.gsc.riken.jp/jp/data/)。農林水産省下の研究所でも公的セクターの努力で各品種のSNPデータがかなりの量得られていると思う。取得者の利益を確保のための一定の時間留保した後に、公開するポリシーを確立し、品種の生育に関するデータとともにまとめて公開する準備を始める。それは別途進んでいる米国および諸外国における公開データのフォーマット互換性に考慮する
(完全に互換にする必要は必ずしもない)。
2)会議においては、新しい型のライブラリアンの関与が必要だと強調されていた。理研の情報基盤センターにおいては、その必要性にいち早く着目し、上記マウスcDNAライブラリの公開の実現に働いた人材を確保してチームの構築を始めている。農業関係においても、ゲノム情報を専門に扱うデータベースチームの構築が重要と考える。
3)作物品種に関するSNPデータの取得
日本で生産されている主要な穀物(米と麦)、および食糧不足時にこれらに代わって国民の食糧確保に寄与する可能性がある作物(救荒作物:ジャガイモ、サツマイモ、かぼちゃ、雑穀類)のSNPデータを、公的セクター保有の品種と在来品種に関しては網羅的にSNPデータを取得し、上記データベースにまとめる。救荒作物に関しては、品種の多様性は海外のほうが多いと考えられ、データ公開ポリシーの恩恵を受けるのはむしろ日本であろう。日本保有のものを公開するとともに、インド、チベット、アフリカ諸国を援助してこれらのSNPデータの確保と公開を進める。
4)有用遺伝子変異品種の作出
理研においては、陽子・イオンビーム照射による突然変異の誘発を使って、有用な新しい性質をもった品種の作出の実績がある(耐塩性イネなどhttp://www.sankeibiz.jp/business/news/130313/bsc1303130501006-n1.htm)。このような新規な性質を持った品種を作出し、そのSNP変異と生育情報をデータベース化する。
5)陸水(地上・地下)の動態の全球調査
半乾燥地帯を抱えるアフリカ・インドの食物生産においては、水の確保が最も重要だという。日本においても、江戸時代前期の耕地はほとんど灌漑されておらず、大きな問題になっていた。江戸後期から明治・大正・昭和と営々と灌漑施設が作られてほとんどの田畑が灌漑され、水確保の問題が大幅に緩和した。その経験を生かし、環境に負荷をかけない有効な灌漑法をアジア・アフリカ地域向けに確立する必要がある。そのためには、衛星からの土壌水リモートセンシングと畑や河川における陸水(地上・地下)のその場での測定による水の動態の把握を行う。
6)耐塩性品種による海水灌漑農業の可能性調査
灌漑に海水を使えれば、大きな河川のデルタ地帯に大面積の耕地を形成し得る。単子葉植物においてはアマモの例もあり、十分可能性がある。上に述べたように耐塩性(海水・真水半々の汽水域で生育可能)イネ品種がイオンビーム照射で作出されている。これを一歩進めて、半乾燥地域の海岸線における、海水灌漑農業の可能性を調査する。