光酸化還元反応によるアルデヒド的リボヌクレオチドとアミノ酸前駆物の合成
RNAの前生的な起源の理解のために、Ritson and Sutherland (2012)は、Kiliani-Fisher反応による、シアン化銅の光酸化還元サイクルを使ったシアン化水素1からの単純な糖の合成を示した。それは以下のように進行する。まず、光酸化還元反応が、シアン化水素1を酸化してシアンノゲン2を作り、陽子と水和電子の形の還元力を生み出す。それらはシアン化水素1をさらに還元してホルムアルデヒドイミンを作る。そのホルムアルデヒド4への加水分解に次いで、シアン化水素1が付加されてグリコールアルデヒド6とそのシアノヒドリンである7とグリセロアルデヒド8が作られる。グリコールアルデヒド6とグリセロアルデヒド8は、ピリミジンリボヌクレオチド合成に必要な原初物質である(Powner et al.2009)。並行して、シアノゲンの加水分解シアン酸イオンを作るが、これは不可逆的に繰り返し付加反応により、グリコールアルデヒド6とグリセロアルデヒド8をトラップする。
Ritson and Sutherland (2014)は、シアン化水素1以外の何かが最終還元剤として働くならば、上記の糖が単体として得られる可能性があると考えて調べた結果、硫化水素10がその役割を果たすことを突き止めた。
彼らは、グリコールニトリル5を出発物質として考えた。というのは、シアン化水素1とホルムアルデヒド4は出会うと反応してグリコールニトリル5になるからである。彼らは水中におけるグリコールニトリル5の硫化水素10による銅触媒を介した光還元過程を調べた。その結果、2時間の紫外線照射で、グリコールニトリル5のグリコールアルデヒド6への効率的な還元が(収率42%)が確認された。他の還元生成物、すなわちアセトニトリル11とアセトアルデヒド12の存在も同時に確認された。さらに、グリコールニトリル5起源のシアンイオンが、水和物として存在するホルムアルデヒド4と硫化水素付加物14を残して、チオシアン酸イオンに変換されていた。アセトアルデヒド12への反応経路は、グリコールアルデヒド6の脱酸素反応であることが分かった。それを確認するため、彼らはシアン化銅とグリコールアルデヒド6、リン酸ナトリウム、そして硫化水素10の水溶液を紫外線で照射した。このときはアセトアルデヒド12への変換は起こったが、チオシアン酸イオン13を余分に加えない限り、その効率は低かった。このことは、チオシアン酸イオン13が、酸化還元反応をより効率的にする役割を果たしている
ことを示している。
アセトアルデヒド12がグリコールアルデヒド6と同時に作られることは、非生的アミノ酸合成にとって特別な重要である。というのは、アセトアルデヒド12が、アラニン、セリン、そしてグリシンのストレッカー反応前駆物質であるからである。ここに、リボヌクレオチドとアミノ酸の起源の関係が現れているかもしれない。
このような反応系に、シアン化水素1とアンモニアをさらに加えると、アルデヒドを対応するシアノヒドリンとアミノニトリルのストレッカー中間体を形成する。シアノヒドリンとアミノニトリルの比は親となるアルデヒドと後からくわえたアンモニアの量で決まる。
まず、アンモニアを加えずに、シアン化水素1を加える場合を考える。このときは、シアノヒドリン(グリコールアルデヒドシアノヒドリン7とアセトアルデヒドシアノヒドリン15)が作られ、反応はさらに還元が進んだ第二段階に進むことになる。7はさらに還元されてグリセルアルデヒド8を作る。同様に、アセトアルデヒドシアノヒドリンはラクトアルデヒド16を与える。これは、スレオニンのストレッカー前駆物である。
次に、アンモニアも加えた場合は、ヒドリン類はゆっくりアミノニトリルに変換される。つまり、ホルムアルデヒド4、アセトアルデヒド12、グリコールアルデヒド6はそれぞれ、対応するアミノニトリル(17、18、19)に日から週の時間尺度で変換される。それらは、グリシン、アラニン、そしてセリンへのストレッカー前駆アミノニトリルである。二段階目の反応後にさらにシアン化水素が加わるとグリセルアルデヒド8とラクトアルデヒド16が対応するシアノヒドリン20と21に変換される。後者はスレオニンのストレッカー中間体アミノニトリルである22に滑らかに変換される。
このように、RNAを作るのに必要な単純糖の非生物的形成反応過程は、現生生物のタンパク質を構成する少なくとも4つのアミノ酸の合成と深く関係していることが分かる。この関係性は、ここで記述した因果関係的に意味を持つと思われる。これを実現する地球物理学的なシナリオの構築が求められている。
また、ホルムアルデヒドとシアニドは鉄イオンとフェロシアニド錯体を形成して濃縮される。フェロシアニド錯体の熱分解は相手となるアルカリ金属により違った生成物を生じる。ナトリウムとカリウムのフェロシアニド塩は、金属シアニド塩(MCN)を生ずる。マグネシウムフェロシアニドは窒化マグネシウムを生ずる。さらに、カルシウムフェロシアニドはカルシウムシアナミドを生ずる。つまり、フェロシアニド塩混合物の強加熱残存物には、シアニド、アンモニア、そしてシアナミドを含む。これらは皆、ここで説明した化学反応、もしくは後のリボヌクレオチド合成に必要なものである。硫化水素と基本となるシアン化銅は、シアニド溶液中の硫化銅の溶解で得られるかもしれない。さらに余分の硫化水素は硫化鉄の同様な溶解で得られる。
Riston, D. and Sutherland, J.D., 2012, Prebiotic synthesis of simple sugars by photoredox systems chemisty, Nature chemistry, 4, 895-899.
Riston, D. and Sutherland, J.D., 2013, Synthesis of aldehydic ribonucleotide and amino acid precursors by photoredox chemistry, Angew. Chem. Int. Ed., 52, 58945-5847.
Powner, M.W. et al. 2009, Synthesis of activated pyrimidine
ribonucleotides in prebiotically plausible conditions, Nature, 459, 239-242.