パル地震による津波災害と、パルと東京の地形の類似性

今年9月28日、インドネシア・スラウェシ島でマグニチュード7.5の地震が発生した。それに伴って、島中部に位置する中スラウェシ州の州都パルの町を波高6~10メートルの津波が襲い、2000人を超える犠牲者を生む大災害を引き起こした。パル湾を南北に走るパル・コロ断層の横ずれが地震の原因であり、当初あまり大きな津波が発生するとは考えられていなかった。

パルは南北に伸びるパル湾の湾奥に位置している。湾口部および湾内で発生した同時多発海底地滑りが、その原因ではないかと推定されている。実際、地上でも、傾き1度程度の緩斜面が1キロ以上移動するという大規模な地滑りが発生している。同様の地滑りが、湾内海底に大量に堆積した軟弱な地層に発生したことは容易に想像できる。

パルは、パル湾奥に位置し、パル川が運ぶ土砂が堆積した軟弱地盤の上に位置している。東京湾奥に位置し、荒川・江戸川が運ぶ土砂が堆積した軟弱地盤の上に建設されている東京との類似性が顕著である。

同様の地震が発生したとき、湾内海底およびデルタ地帯に、同様の大規模な地滑りが東京で起こらないと誰が言えるだろうか。実際、1923年の関東地震(いわゆる関東大震災)では、相模湾および東京湾口部において大きな水深変化や海底電線の切断が記録されており、大規模な海底地滑りが発生していた可能性が高い。

このときの津波で静岡・熱海の町が壊滅的な被害を受けている。一方、東京湾口部における地滑りは比較的小規模で、東京湾内はで2メートル以下の波高にとどまった。想定されている次回の関東地震で、東京湾内の津波波高がその程度でとどまる保証はどこにあるだろうか。

日本の人口の1割以上が居住し、産業インフラが集中する東京湾岸域の重要性を考えると、日本がスラウェシ島地震の教訓から学ぶことは多い。

まず、パルにおける海底地質調査を徹底的に行って、津波の発生と伝搬のメカニズムを明らかにする必要がある。特に、地滑りによる海底地形の変化を特定するとともに、海底の地層層序をソナーとボーリングによって明らかにする。

次に、同様の調査を東京湾口部と相模湾で行って、パル湾のそれと比較し、東京湾・相模湾における海底地滑り発生の危険性を評価する。地上においても、荒川・江戸川のデルタ地帯における液状化と緩斜面大規模地滑り発生の可能性も検討する必要がある。

日本近海の海底地形図を見ると、東京湾・相模湾の他に、伊勢湾伊良湖水道沖の遠州灘・熊野灘や紀伊水道口沖の室戸舟状海盆に至る急傾斜地域に海底地滑りでできたと思われる特徴的な地形を見いだすことができる。

また、これらの急傾斜海域が、1944年の東南海地震、1946年の南海地震のときの津波波源域と一致している。これらの地域の地滑りによる津波発生の可能性の評価を含めた総合的な対策により、想定される東南海・南海地域巨大地震の被害が最小に抑えられることを切に願っている。
フジサンケイビジネスアイ 2018.12.20 09:30
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