人工多能性幹細胞を誘導する遺伝子群と多細胞生物の進化:Genes induce pluripotent stem cells and the evolution of multicellular organisms

山中の発見は4つの遺伝子(Oct3/4、SoX2、c-Myc、Klf4)を細胞の中で同時に発現させると万能幹細胞になるというものだった(Takahashi and Yamanaka 2006)。Oct3/4とSox2は初期胚と幹細胞において、万能性の維持の機能を持っている。一方、c-MycとKlf4とは癌に関係する遺伝子である。c-Mycはヒストンのアセチル化を誘導する遺伝子らしい。Klf4はMycによって誘導されるアポトーシスを抑制する機能を持っていると言われている。

さて、Sox2は、細胞分化に深くかかわる遺伝子である。着床後の2層状態の胚において,Sox2は胚盤葉(上層)の成立に中心的な機能をはたしたのち,2層の胚構造が3層に再編成される“原腸陥入”の時期からは神経系の原基である神経板をN1遺伝子と協力してつり、さらに、中胚葉でTbl6が発現してN1遺伝子の発現を押さえて神経化を抑制している(Takemoto et al. 2011)。

さて、興味深いのは、エディアカラ生物のデッキンソニアに類似の現生種である(Sperling and Vinther 2010)平板生物(センモウヒラムシ)である。この生物は直径約1mmの薄く平たい円板状をしていて、背腹の区別がある。背側の単層上皮細胞は扁平で一本の繊毛を持ち、中央の膨らんだ部分に核を持つ。腹側の単層上皮細胞では、柱状で繊毛を持つ細胞と、それを持たない腺細胞からなる。この腺細胞が酵素を分泌して有機物や微小な単細胞生物や藻類を消化している。背と腹の上皮細胞の間は体液で満たされ、繊維を含んだ間柔組織がみられる(白山他2000)。基本的には、二胚葉性で、中胚葉も神経系も持たないらしい。上記の発生学的な知見からは、センモウヒラムシは、Sox2のみを持ち、その上面でのみ発現していることが予想される。もし、柔間組織が中胚葉の萌芽ならば、Tbl6やN1遺伝子が発現しているかもしれない。

Takahashi K. and Yamanaka, S. 2006, Induction of Pluripotent Stem cells from mouse Embryonic and Adult Fibroblast Cultures by Defines Factors, Cell 126, 663-676.

Takemoto T. et al. 2011, Tbx6-dependent Sox2 regulation determines neural or mesodermal fate in axial stem cells, Nature, 470, 394-398.

Sperling, E.A. and Vinther, J. 2010, A placozoan affinity for Dickinsonia and the evolution of late Proterozoic metazoan feeding modes, Evolution and Development, 12, 201-209.

白川2000、無脊椎動物の多様性と系統、バイオダイバーシティシリーズ、裳華房